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AIはジャーナリストの仕事を救うのか、奪うのか 「記者ゼロ通信社」の挑戦メディア業界、「悪貨と良貨」の戦い(4/4 ページ)

» 2019年11月13日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]
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AIでも覆しきれない「メディアの収益問題」

 米重社長は「報道機関はストレートニュースを伝える情報の『ライフライン』と、言論機関という両方の役割を持っている」とみる。ストレートニュースをそのまま伝えるような日々のルーティンワークや、膨大な情報から使える物を抽出する作業はある程度AIに代わられる一方、そもそも「何が社会的に問題なのか」といった記事の課題を設定し、取材相手から聞き出す作業は機械などには30〜50年後も代替できないのでは、と指摘する。「『何が起きたか』までは機械ができるが、『なぜ起きたか』は人間の仕事」というわけだ。

 一方で、特にネット記事では、行政や企業のリリース内容をろく分析せずそのまま流す記事がよく散見される。記者業界では「横(に書かれたリリース文)を縦(の記事)にする」と呼ばれるが、その程度の執筆業務はいずれAIなど機械がこなすようになる、と米重社長は推測する。「オピニオン(主張)執筆や、記事内容が客観的かどうか、裏付けが取れるかどうかといった仕事は人間がしなくてはいけない。そこにメディアがリソースを割けるよう、機械と人間は分業すべき」と説く。

 記者に成り代わるというより、むしろメディアの人的コストを肩代わりし、支援する目的で始まった同社の「取材AI」。ただ、特に現在のメディア業界では、良くも悪くも「ネット上でどれだけ読まれたか」がマネタイズの指標になりがちで、専門記者を現場に張り付けるコストがかかる旧来型の媒体は、「直接取材を重視しない」傾向にあるネットメディアに比べどうしても収益で不利な状況が続く。

 米重社長も「災害などの情報の間違いは人命にも関わる。ただ、ゲームに例えると『どんなことをしてもバズってPVが稼げれば良い』というルールに(今のネットメディアは)なりがちだ」と指摘。「正しい情報を発信しないともうからない」ようなメディアの収益モデルを作らない限り、「悪貨による良貨の駆逐」は是正されないのでは、とみる。

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