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AIはジャーナリストの仕事を救うのか、奪うのか 「記者ゼロ通信社」の挑戦メディア業界、「悪貨と良貨」の戦い(2/4 ページ)

» 2019年11月13日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]

 今回の台風では主に停電や事故、防風に浸水の発生が取り上げられた。全国ニュースで流れる大規模な災害もあれば、ローカル向けの事故情報など内容は多岐にわたる。

過去の画像ビッグデータから「ウソ」検出

 ただ、人力でなくAIが膨大なツイート情報の中から「本当らしい」ニュース発生を見つけるとなると、問題になるのが偽情報や紛らわしい書き込みだ。

photo JX通信社の米重克洋社長

 JX通信社の米重克洋社長は「例えば『火事』と書き込まれていても、ツイートの内容は焼肉の様子だったりする」と指摘する。16年の熊本地震の際も「動物園からライオンが放たれた」といったウソの書き込みが無関係な画像と共に拡散した。実際、偽ツイートをよく確認せずに取り上げて報じてしまうネットメディアは今も後を絶たない。

 そこで同社がSNSの偽情報を検知するため活用しているのが、AIによる膨大な情報を使った機械学習や、画像処理といった分析技術だ。「例えば『〇〇バイパスで事故』という内容の画像を違う人がそれぞれ同じ時間帯にアップしていたら、その事故情報は確からしいと認識する」(米重社長)。

 偽の画像についても、災害時に出回るのはたいてい過去にツイートされていた物が多いため、蓄積された膨大な投稿画像の情報を参照することで、「これはパクツイ(過去の他人のツイートを勝手に自分の書き込みのように装い投稿すること)だ」などとAIに気付かせることができる。「“ラストワンマイル”の作業は人力で確認することもあるが、過去の情報を活用することで99%の偽画像は弾ける」と胸を張る。

 警察の記者クラブなどでも所属マスコミが活用するようになってきたFASTALERT。記者たちはJX通信社からのアラートを受け取ると、そのニュースの現場に急行したりツイートを発信した人に接触するなどして、従来より素早く事件・災害の報道ができるようになってきたという。

 浸透の背景には、ネットニュースの発達で速報性が強く求められている点が大きい。ただ、米重社長がさらに強調するのがマスコミ業界の深刻な「人手不足」だ。

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