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キャッシュレス化で長財布はもうダサい!? ファッションプロデューサーMBが明かす「ファッションと時代」の意外な関係MBが語るアパレルビジネスの近未来【後編】(2/4 ページ)

» 2019年11月23日 19時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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トレンドの「トリクルダウン」

――ファッションにおいてもビジネスにおいても「差別化」は重要ですが、MBさんは「ファッションの世界はトップダウンでトレンドが波及していく」と主張しています。具体的には、どのような構造になっているのでしょうか。

 ファッションの世界は、ヨーロッパのハイブランドの人たちが僕らよりも高い目線で10年先20年先を見ています。彼らは洋服を着始めて何百年と経(た)っていますから、見ている時間の規模感が違うんですよ。100年200年とみていく中で、洋服のトレンドってこういうふうに動いていくんだよなっていうことを大局的に見ています。

 例えば無地が流行ったら次は柄が流行るよね、大きいシルエットが流行ったら次は細いのが流行るよね、みたいなことを、より細かく先まで見られるんですよね。そうすると10年先に来るデザインを今年に実施できます。そしてそれが次第に拡散されていって、パリやミラノのコレクションで発表されたスタイルを、そのパリとかミラノのブランドを買い付けているバイヤーさんが「ああ、あれ一番かっこいいかも」と思って、本国に持って帰ります。

 例えば、それが日本のバイヤーだったら日本に持ち帰り、そのバイヤーさんが管理している店の顧客がそれに食い付きます。さらに顧客の周りの人達が「お前が着てる服かっこいいな」という具合にどんどん波及していきます。

――なるほど。まさしく水は高きから低きに流れるというわけですね。

 そしてそれが最終的にマスまで浸透したら、本当に子どもからおじいちゃんまで着るような文化になりますね。でもそれはもう差別化ではなくなってしまうので、新しい差別化がまた生まれることになります。こうしてトレンドの波ができていくわけです。この波をしっかり把握できているのがハイブランドで、だからハイブランドから落ちてきているっていう構造があるのだと思います。

――MBさんは普段どうやって最新の情報を仕入れているのですか。

 やはりパリコレとかミラノとか、コレクションをチェックするのが一番勉強になります。実際に現地に行くことはないんですけど、映像を通じて全部に目を通しています。

 コレクションって、例えば2019年の秋冬だけを単発で見ても理解できないんですよ。ところが、10年スパンでずーっと見ていくと、「あれ、これって5年前にやったよな、10年前にやったよな」っていうふうに、波が次第に見えてきます。点で見ていると意味は分からないんですけど、線で見ると意味が分かってくるんですよね。

 ここがファッションの面白いところだと思っていて、例えばジャケットが何で今ダブルが来ているんだろうとか、襟の形にしてもなぜノッチドじゃなくてピークドが来ているんだろうとか、点で見ても分からない。でも、10年間を線で見ていると、ダブルってこのときに来ていて、次はシングルが来ていたから、ってことは来年シングル来るよな、みたいなことが見えてくるんです。

 コレクションは一番それが分かりやすいから、僕はコレクションを参考にしながら、お客さんに次はどういうことを伝えなきゃいけないのかを考えています。例えば歴史から見ると、来年このトレンドは消えるから、もうこれ買わなくていいですよとか、こっち買ったほうがいいですよ、みたいなことは言えるので、それがコレクションの面白いところだと思いますね。

phot コレクションをチェックするのが一番勉強になるという(パリで開催された10月の春夏コレクションでのLouis Vuittonのショー。写真提供:ロイター)

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