マーケティング・シンカ論

小売にはびこる「悪しき先入観や現場主義」をぶっ壊せ! データドリブンなグッデイ三代目社長は、何と戦ってきたのか長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」(2/4 ページ)

» 2019年12月02日 08時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]

社長が自らデータサイエンティストを目指す意義は

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長谷川: 部下にお願いしたり、データサイエンティストを雇ったりするのではなく、社長である柳瀬さんが自らデータ分析をしようと思ったのはなぜですか?

柳瀬: 「経営企画部に頼めばいいじゃん」と思うかもしれないけれど、社長と経営企画部では見たいポイントが微妙に違うんですよね。それを言葉で埋めようとすると、時間がかかってコミュニケーションコストが高くなってしまうんです。それよりは、自分で自分がイメージするものを作って見せられた方が速いし、お互い納得できるんですよね。

長谷川: なるほど。世の中はまだ、Excelと同じようなノリでちょっとSQLをたたけたり、BIツールを使えたりするだけでかなり仕事の生産性が上がることに気づいていないよね。「こんなデータくれ」ってお願いしたらマニアックな誰かが出してくれる――みたいなところで、ITを使う側の認識が止まっている気がするね。

柳瀬: 昔は、うかつにシステムの話をすると、何百万、何千万のコストがかかるという話でしたが、クラウドのおかげでぐっと安く簡単に使えるようになりました。他の人が「やってみた」情報もネットで公開されているので、トライしやすくなりましたよね。この4〜5年でどれだけITが使いやすくなっているかということを、「使う側」が勉強しておかないと、時代に取り残されてしまいます。

長谷川: 今の話ですが、「柳瀬さんだからできることであって、うちの社長には無理」っていう声も聞こえてきそうです。

柳瀬: 最初は尻込みするかもしれませんが、僕らがやっているデータ分析は、技術的にはそんなに難しくないんですよ。少なくとも、普通のシステム部門の方だったら、誰でもできるようなことだと思います。

長谷川: システム部門の人はできるとしても、普通の小売業の社長にもできると思う?

柳瀬: 小売業の社長って、財務諸表を見て経営の実態を把握しようとしたり、休日でもお店を回ったりして、「なるべく現場を見よう」と努力している方が多いじゃないですか。マインドは同じです。「うちの社長にはデータ分析なんてできない」と思うかもしれないけれど、社長が一番リスクを背負って事業をやっているので、きっかけさえあれば火がつくはずなんですよね。

 僕は、自分が社長になってみて、現場で何が起きているのか分からなくて一番モヤモヤしているのは社長なんだと分かりました。とにかく不安なんですよね。売り上げが良くても悪くても「何が原因なのか」がはっきりしないから、むやみに口を出したくなるんです。でも、口を出したからといって必ず良くなるものでもない。努力の方向性が見えないのって結構しんどいですよ。

 それがデータ分析によって視界がひらけ、見えなかったものが見えるようになった。物事の解像度が上がったんです。ようやく、経営者が本当に経営者っぽいことに専念できる環境になりつつあるんじゃないかと思っています。

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