日本企業は今こそ、手を組んでチャレンジに打って出るべき――カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(1/4 ページ)

「AWS re:Invent 2017」に刺激を受けて、翌年の年頭朝礼で「IT企業宣言」をしたというカインズ代表取締役社長の土屋裕雅氏。SPA(製造小売業)にもIT改革をもたらすべく、CEO自らITのトップランナーたちに学ぶ土屋氏が描く、業界を超えたイノベーションとは。

» 2018年09月16日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]
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この記事は、「HANDS LAB BLOG(ハンズラボブログ)」の「長谷川秀樹のIT酒場放浪記」に2018年2月27日に掲載された記事を転載、編集しています。


 ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。

 今回のゲストは、ホームセンター大手のカインズ 代表取締役社長、土屋裕雅さんです。2017年にはラスベガスで行われたAWS(Amazon Web Services)のイベント「re:Invent」に自ら出かけ、年初の朝礼で「IT企業宣言」をしたという土屋氏に、今後の小売業の方向性やご自身のリーダーシップの在り方、日本の若者に対する期待などを伺いました。

“re:Inventの刺激”を受け、年頭朝礼で「IT企業宣言」

長谷川: 土屋さんと初めてお会いしたのは、2017年の11月から12月にかけてラスベガスで開催された、「AWS re:Invent 2017」ですよね。確か、カインズさんは8人くらいで来られていて。

土屋: そうです。

長谷川: ANAシステムズの幸重さんとかパルコの林さんとか、re:Inventに来られていた人たちで現地で食事をご一緒したときでした。僕が驚いたのは、カインズの社長が自ら来られたということなんです。日本の会社の情シス部長とかCIOみたいな人が来ることはあっても、普通、社長は来ないですよ。

 会食の翌日、AWSが用意してくれたリテイル企業向け昼食会では、Nordstrom(ノードストローム)だとかLowe's(ロウズ)だとか、グローバルのリテーラーの人たちがいたんですけど、土屋さんがLowe'sのCIOにどんどん英語で質問しているのが、非常に印象的でした。

 そんなトップはあまり見たことがないですよ。自分の得意領域であれば別でしょうけど、ITとかクラウドに関しては、ITの担当の人に「任せた、お前聞いてこい」という人が普通ですよね。

土屋: ありがとうございます。一緒に行ったITの担当者も英語はしゃべれなくて。でも、興味が語学力とか恥ずかしさを超えてしまうことってありますよね。それに、あのときに僕が聞いていたのはITのことではなく、店舗のオペレーションのことだったんですよ。そちらについては一応プロなので、聞きたいことが山のようにありました。とても貴重な機会でした。

Photo カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅氏

長谷川: そうでしたか。とにかく、自分からどんどん質問しているのを見て、すごい人だな、と思いました。

土屋: でもね、re:Inventのキーノートとかを聞いていて、周りの人が「うわー、こんなサービスができるのか!」と感動していても、僕にはその感動が分からないんですよ。もともと何ができて、何ができてないかを知らないから。だから、自分でも「うわー」とか言って、感動を味わえるようになりたいと思いましたね。

 長谷川さんと出会ったことなんかも刺激になって、カインズにももっとテクノロジーを取り入れないとダメだな、と強く思ったんです。それで、2018年の年頭朝礼では「うちはIT企業に変わります」という「IT企業宣言」をしたんですよ。

長谷川: それはまた、社員はビビるでしょうね(笑)

土屋: 何を言い出すのかと(笑)。ここで飲みながら言っているのとは違って、全社員に対して朝礼で言ったんですからね。それでIT企業になるためにはどうすればいいかと考えたのですが、あまり妙案が浮かばなかったので、まずは「IT酒場放浪記」に呼んでもらおうと思ったわけです。

長谷川: SIerの方を除いて、自薦で来られるというのは初めてですよ。土屋さんから直接メッセージいただいて、「広報の人は了解しているのかな」とか、心配しました(笑)。

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欧米や中国の最新テック事情に焦燥感

長谷川: 年が明けてからまたアメリカで、「CES」(コンシューマーエレクトロニクス関連の展示会)と「NRF」という全米小売業協会の大会に行ってきたんですよ。

 CESは、初めての参加で、巨大な展示場所に、自動運転、ホームIoT、VR/ARなど、すごい数の商品が展示されていて、圧倒されました。自分のスピード感がまだまだ甘かったと思うのは、「こういうことができたらいいよね」というのは、素人考えでたくさん思い付くじゃないですか。でも、それがだいたいCESにはある(笑)。日本の家電量販店には、IoT家電は少数なので、現実にはまだまだなのかと思っていたんです。ところがCESに行くと、全部そろってるんですね。「え、もう売ってるの?」みたいな。

 面白いな、と思ったのは、中国の電球のOEMメーカーが自社ブランドで出展しているわけなんですけど、IoTって電気とネットワークの2つが必要ですよね。ホームIoTの場合は、自宅からWi-Fiなどがあるんで、あとは給電方法をどうするかの問題。電球メーカーが、電球にスピーカーが一体化したものだとか、玄関口のライトにカメラが付いたものだとかを発売しているんですよ。それも、スピーカーはJBLと組んでいる。そうすると、取り付け工事とか不要になるんで、ホームIoT普及の素晴らしいアイデアだなと思いました。

 そういうのがすごく楽しいというか……、正直に言うと焦りしか生まれなかったです。中国、米国、そしてフランスも政府あげてLa French Tech(フレンチテック)を推奨している。われわれ、マズイなと。

土屋: 同感です。その焦りはAWSのイベントでもありましたし、昨今の中国に対しても、すごく感じます。日本はこれでいいのかと。日本の中の小売業同士でなんだかんだ言っているのは、しょせん“コップの中の嵐”ですよ。

長谷川: そうですよね。

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土屋: いま、早稲田大学で「マーケティング戦略の実像」というカインズの寄付講座を持っているんです。半年間、いろいろな方を呼んで講義をしてもらうのですが、私も最初に少し「SPA(製造小売業)」の話をしまして、口で言ってもなかなか分からないから、宿題を出したんですよ。カインズのSPAのポイントをお話した上で、「もしみんなが商品を作るとしたら、どういうものを作りますか?」という。

 先日、100人以上が提出したものから優秀なものを発表しました。最優秀賞は商品ではないのですが、「買い物のときにカートが後ろからついてくる、自分で持って歩かなくていい」というものだったんですね。「なるほど!」と思わせて、すぐにできそうだし、学生らしいアイデアです。

 ところが、授業の後で中国からの留学生の女の子が、「さっきの最優秀賞のやつ、中国にあります」と言ってきたんです。厳密には、もうすぐできるということだったんですが、北京で近々オープンする店が、動くカートというのを作るんだそうです。その学生はアリババに就職が決まっているという話も聞いて、いろいろと思うところがありました。こんなことやっていていいのかな、と反省しきりですよ。

長谷川: うちも少し前まで中国に出店していましたが、本当に向こうの方が進んじゃっていますね。特に決済のシステムなんかは中国に学ぶところがあります。

 技術革新の具現化にしても、日本だと「グレーはストップ」みたいなところがありますが、米シリコンバレーと中国は「グレーなものはGOだ」という考え方が非常に似ています。

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