長さ10メートルの“鉄道向け印刷”から未来の自動改札まで 鉄道技術の進化を探る杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2019年12月06日 07時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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・超指向性スピーカー

 旅客案内と安全面で、今後の発展に期待する技術が超指向性超音波スピーカーだ。マウスピック社の展示品で、用途としては改札付近やエレベーター、エスカレーター乗り口の「ご注意ください」というメッセージ再生だ。必要な人に必要な情報を伝え、必要ない人にとっては雑音となる音を届けない。これを応用していくと、プラットホームの片側だけに列車の情報を伝えて、反対側で列車を待つ人を惑わせない、という使い方ができる。

 さらなる期待は踏切警報音としての使い方だ。もっと出力を上げる必要があるけれども、踏切と交差する方向に限定して警報音を鳴らせば、近所に騒音で迷惑を掛けずに済む。騒音被害に配慮して、鳴り始めてしばらくすると音量を下げる警報器があるけれども、本来、警報音は大きくあるべきで、音量を下げたら意味がない。超指向性スピーカーなら、踏切を渡る人やクルマだけに注意喚起できると思う。この技術はもっと進化してほしい。

超指向性超音波スピーカー。近づいて可聴範囲に入らないと聞き取れない。絶妙なバランス

10メートル以上の1枚モノも可能、印刷技術に感動

 最後に一つだけ、元出版社の社員として、列車ダイヤ好きとして、感動した技術を紹介する。長尺印刷を得意とする昇寿堂のダイヤグラム(列車運行図表)だ。10メートル以上の1枚モノで印刷し、ジャバラ折り加工する技術を持つ。多くの鉄道会社で列車ダイヤの印刷を担っているという。ちなみに10メートル以上の印刷は列車ダイヤではなく、保線用の路線情報とのこと。運転曲線や速度制限、カント、標識など、1路線のあらゆる情報を距離に応じて掲載する。鉄道会社はイベントで中古列車ダイヤを頒布しているけれど、路線データも印刷されているのか……ほしい(笑)。

薄く丈夫な紙を使い、折り重ね時の厚みを抑える

 市販の地図帳にも長尺蛇腹タイプはあるけれども、たいていは輪転機サイズで分割され、複数枚を貼り合わせて作られる。それが1枚モノになると、貼り合わせ部分がないために丈夫だ。貼り合わせ部分があると、ダイヤ修正や書き込み作業でペンが引っ掛かる。列車ダイヤの細かい作業では、1ミリも無駄な線を残したくない。だからこその1枚モノだ。

 もっとスゴいところは、蛇腹に折ったとき、山折り、谷折りの部分に、時間を示すタテ軸がピッタリと収まっている。運行管理者や保線担当者は、必要な時間帯の部分だけを開くことができる。これは本当に感動した。デジタル化が進むとはいっても、アナログな紙媒体を使う場面はある。印刷にはまだまだできることがある。

折り目と時間軸がピッタリ重なる

 興味深い技術はまだあるけれども、全てを挙げるとキリがない。また、もっと詳しく掘り下げたい展示物もあったので、あらためて取材したい。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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