職場の心理的安全性を高めるために、今城氏はいくつかの段階に分けて考えるべきだと主張する。まず考慮すべきは、「解決したい課題が心理的安全性に関係するものなのか」ということだ。冒頭で説明したように、心理的安全性にはいくつかの誤解が潜んでいる。その最たるものとして今城氏が挙げるのが「心理的安全性はメンタルヘルス改善との関連性がある」という誤解だ。
先行する研究を分析すると、心理的安全性がもたらす効果は「エンゲージメント」「(積極的な)学習行動」「(仕事への)満足度」などがあるが、メンタルヘルスの改善については研究が出ていないという。「心理的安全性は“万能”ではない。あくまで業務を行う上で、脅威を感じずに話せるかどうかを示すもの」と今城氏は話す。
解決したい課題が心理的安全性に関係するのであれば、次に考えるべきことは「誰のどんな発言を引き出したいか」だ。また、心理的安全性を高めることで得たい効果(職場の創造性、対人関係の改善など)を明確にする。さらに、明確化した目的を阻害する要因や、どうやって発言を引き出すか、といったことを検討していく。
では、心理的安全性が高い職場にはどのような特徴があるのだろうか。組織行動研究所が以前に行った調査によると、業種や従業員規模、職務系統別では大きな違いが見られなかったという。一方で、心理的安全性の高い組織を見ると、上司と部下間のコミュニケーション頻度が高い傾向にあると分かった。
また、職場内で個々人が感じる心理的安全性にばらつきがあればあるほど、その職場の総合的な心理的安全性は低い傾向になるという結果も得られた。今城氏は、心理的安全性を高めるために重要なこととして「組織単位での取り組み」を強調する。つまり、個人の心理的安全性にフォーカスして底上げを図るのではなく、職場全体でまとまった取り組みを行わないと、心理的安全性は高められないということだ。
こうした結果を踏まえ、今城氏は「上司が中心になって周りを巻き込むことが必要。そのためにも上司は普段から、誰が何を話せていないのか、感じ取る必要がある」と締めくくった。
どうしても職位の低い人は自信を持ちづらく、「自分の意見なんか……」と考えて口を閉ざしがちだ。しかし、そうした意見からも意外なアイデアが生まれることは多々ある。普段から気を配り、誰もが闊達(かったつ)に話し合えるような風土づくりを上司は心掛けたい。
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