では、どんな「疑惑」がベストかというと、やはり政治家の腐敗だ。IRの後押しをしていた国会議員が、実はIR参入を目指す会社から袖の下をもらっていました、なんてシナリオなら老若男女に分かりやすく、国民の怒りが爆発する。
そのシナリオを「日本人顧問」を利用して巧みに再現したのが、今回のIR疑獄ではなかったか。
もちろん、これはあくまで筆者の想像に過ぎない。しかし、中国という国が、これまで政敵を潰すために「政治家の腐敗」を利用してきたのは歴史的事実だ。この数年力を入れてきた反腐敗キャンペーンも習指導部体制を脅かすライバルたちを引きずり下ろすため、「疑惑」をでっち上げているという指摘もある。
そういう謀略が当たり前の国の企業が、水面下でバチバチやっている「敵国」の政治家に賄賂を払ったのだ。これを額面の通りに受け取れというほうが無理がないか。
いずれにせよ、中国企業がバラまいた賄賂をきっかけに、国民の政治不信が高まって、ついにはIRなどやめるべきだ、という声が巻き起こっているのは紛れもない事実だ。
日本のIR構想は1999年の石原都政の「お台場カジノ」までさかのぼる。あれから20年を経てようやく国会まで通して規制当局が動き出そうかというタイミングで、1000万円ほどの中国マネーでちゃぶ台返しされかけている。もしこれが対日工作ならこんなコスパのいい話はない。
IRの見直しを求めてゴタゴタする国会のニュースを見ながら、「やっぱ日本はチョロいな」なんてほくそ笑んでいる者がどこかにいるのではないか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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