新型特急「ひのとり」がくる! 2020年、近鉄から目が離せない杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2020年01月17日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

乗車品質で勝負だ

 名古屋駅〜大阪駅間の最速移動手段は東海道新幹線だ。名古屋〜新大阪間は約50分。新大阪〜大阪間は約4分。乗り換え時間を含めて1時間ちょっと。最速であり、最もシェアが大きい。そこに異論はなかろう。この圧倒的な速さと座席数に対し、近鉄の「名阪特急」は果敢に戦ってきた。JR東海と近鉄の名阪輸送は「速さの新幹線」「安さの近鉄」というライバル関係であった。そこに近鉄はグレードアップ車両「ひのとり」を投入し、乗車品質を向上させた。

鳳凰を連想する優美なトレードマーク

 「ひのとり」は6両編成8本、8両編成3本が順次投入される予定だ。3月14日から名阪特急のうち5往復が「ひのとり」になる。例えば、平日の近鉄名古屋発は午前7時、11時、午後1時、5時、7時、8時ちょうどだ。名阪特急はこのほかの車両も合わせるとおおむね30分間隔で運行している。乗車機会としても新幹線に匹敵する。名古屋〜大阪間は東京〜新大阪間の乗客が多いため、運行本数が多くても指定席を取りにくい。窓際など人気のある席の希望も叶いにくい。しかし名古屋〜大阪専用の「ひのとり」なら指定席を獲得しやすいだろう。

 また、大阪中心部の難波へのアクセスも考えると、新大阪駅〜なんば駅間は地下鉄御堂筋線で15分ほど要するから、新幹線と近鉄特急の所要時間差は縮まる。さらにいうと、近鉄は2027年のリニア中央新幹線開業を見据えているだろう。東京〜名古屋間をリニアに乗り、名古屋〜大阪間を東海道新幹線に乗り継ぐか「ひのとり」にするか。速さの魅力でリニアを選んだビジネスパーソンは東海道新幹線に乗り換えそうだけど、観光客はリニア+「ひのとり」を選ぶかもしれない。そう遠くない将来を見据えれば、近鉄は「名阪特急」よりも「ひのとり」のブランドを前に出したいだろう。

 近鉄は大手民鉄で最も広大な路線網を持つ会社だ。圧倒的な資本力を持つJR東海と、名古屋〜大阪間でライバル関係を持っているところが興味深い。圧倒的な性能と座席数を持つ白い新幹線に、居住性と低価格で挑む赤い「火の鳥」。アニメ『機動戦士ガンダム』になぞらえれば、地球連邦軍の白いガンダム対ジオン公国の赤い彗星ザクだ。この関係は客観的に見て心が躍る。リニア方面に注力するJR東海の間隙を「ひのとり」が突く。

「ひのとり」は近鉄特急網の核となる(出典:近鉄グループホールディングス「近鉄グループ経営計画」)

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