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かつてないロボット「LOVOT」が世に送り出されるまでの舞台裏 (3/6 ページ)

» 2020年02月13日 08時30分 公開
[後藤祥子ITmedia]

「変更に次ぐ変更」に現場の対応は……

司会 具体的には現場でどんなことが起こっていたのでしょうか。

福田 例えばLOVOTにオーナー登録するときに、セキュリティを担保するためにはBluetooth経由なのか、それともほかの方法なのか……と、いろいろな方法を検討する中で、認証コードがプリントされた紙をLOVOTの箱に入れて、オーナーが箱を開けて初めてLOVOTと出会ったときにコードを入力すれば、簡単だしセキュリティ面でもいいのでは、というアイデアがありました。

 ただ、本当にそれを実現するとしたら「紙を入れる」だけでは終わらなくて、工場の人や生産チームとしっかり話して、生産工程でその紙に認証コードを印刷する裏側の仕組みを作って、それが間違いなく確実に正しい箱に入るようなオペレーションをつくらなければならないし、それがスタートした後に、常に間違いがないようモニターする仕組みを構築する必要があります。

 このように、紙を1枚入れるだけでもすごく壮大な話になるわけです。

イベントの様子は、うじさかえる氏がグラフィックレコーディングで記録

 かけはしプロジェクトで、「そろそろ、この部分の“仮置きしていた前提”については、具体化しないといけないよね」という話になったら、そのアイデアの1つ1つに対して、「サプライチェーン全体から見たときのメリットとデメリットは何か」「ベストな方法は何か」という問いをしっかり立てつつ、LOVOTの開発チームのどこまでを巻き込んで議論すべきかを、個別の案件ごとに判断しながら進めるんです。出てきたアイデアの1つ1つを夢物語で終わらせず、LOVOTを世に出すために最善の方法を考えて具体化することをやってきました。

前例のない”LOVOTの世界観”、ブレずに共有する方法とは

司会 話をお聞きして分かるのは、かけはしプロジェクトは、「先を見越した検討をしなければならない」し、LOVOT開発メンバーは、「目の前の課題を解決していかなければならない」。そんな中で、お互いの考え方を一致させてプロジェクトを進めるのは難しかったのではないでしょうか。

杉田 GX社内では、LOVOTを通じて作ろうとしている世界観の意識合わせをするために、ストーリー&スケッチをたくさん描いています。

Photo プロジェクト関係者がLOVOTの世界観を共有するのに役立ったストーリー&スケッチ

 例えば、お父さんとLOVOTのなにげない日常――。お父さんが食事を終えて席をたち、リビングのテレビのスイッチを入れて読みかけの本をとりに行く。メガネを探してウロウロしていると、その後ろを小梅(LOVOT)がひたすらついていく。メガネを見つけたお父さんがソファに落ち着くと、小梅もその足元にちょこんと座る――。

 このような、「LOVOTがいる何気ない日常の1シーン」を、さまざまなパターンでつくるんです。それをLOVOT開発者やプロジェクト関係者が見て、「こんな日常を再現するには、LOVOTにどんな技術が必要なのか、その技術はこのシチュエーションに耐えうるのか」といった詳細を確認するわけです。

 例えば、メガネを探してうろうろしているお父さんの後をついていくためには、自動運転のような技術が必要になりますし、お父さんの足元に座るには、「お父さんがソファにおちついた状態」を認識できる技術が必要です。

 このようなストーリー&スケッチを共有しながらプロジェクトを進めたのは、考え方の方向を一致させ、ブレをなくすという意味でとても役に立ちました。

梅澤 次々と新しいストーリー&スケッチができてくるので、われわれも出るとすぐに読んで、「実現したい世界観のイメージ」をつかむようにしていました。新規事業の立ち上げ時に、よくペルソナを設定したり、ユースケースを書いたりすることがありますが、ストーリーがあることによって、本当にそれが正しいかどうかが分かりやすかったですね。

 GXのすごいところは、全社会議でストーリー&スケッチを公開し、全社員と共有するところです。新作は全社に公開して、「違和感を覚えたら質問してください」と呼びかけるんです。GXの社員間で「ここは違う」「ここはよくできている」というやりとりがあって、それを通じて価値観を合わせているんです。

杉田 認識合わせのときに、CEOの林が問うわけです。「このお父さんは何歳くらいなのか、兄弟はいるのか」と。そういうところまで突き詰めて考えているんですね。新しい何かを作るときには、「製品がまとう空気感や存在する世界感」を関係する人同士で共有して、毎週でも毎日でもディスカッションしながら進めるのが大事なのだと学びました。

司会 LOVOTについての意識合わせや世界観の共有は、どのくらいの頻度で行っていたのですか。

杉田 基本的には毎週行っていましたが、必要に応じて別途、実施することもありました。総務や経理、ハードウェア開発や基板開発、アニメーターからビジネスサイドの人間までが集まって、それぞれの立場から意見を述べていましたね。

福田 GXでは、社員全員で共通の世界観を持つことをとても重視しています。コンセプトもそうですが、LOVOT自体の開発もそんな進め方をしています。基本的に1週間のサイクルで開発を進めているのですが、その週に開発されたものを週に1回、社員全員が見られるよう公開しています。

 開発チームの中だけで進めるのではなく、誰もが最新の状態のLOVOTに触れてフィードバックできるようにしているんです。それによって社員がみな、当事者意識を持ってLOVOTの開発状況を把握できるし、何かあれば伝えてより良くしていこうとする。そこにかなりのパワーを使っていますね。

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