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かつてないロボット「LOVOT」が世に送り出されるまでの舞台裏 (5/6 ページ)

» 2020年02月13日 08時30分 公開
[後藤祥子ITmedia]

「先が見えない」中でのシステム開発

司会 実際には、どのような開発手法を使ってプロジェクトを進めたのでしょうか。

梅澤 プロトタイピングという手法を採用して開発しています。いわゆるECサイトや裏側のシステム、コンタクトセンターの仕組みといったところは、パッケージやソリューションの標準画面やモックアップを見ながら、詰めが甘いところがないかどうかを確認しながら進めました。

 スケジュール管理はCCPM(クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)を採用しました。これはゴールから逆算して工程を設計するという考え方です。

 このプロジェクトは不確実性が高く、先を見通すのがとても大変だったのですが、なんとかして先を見透さなければいけないというのが私たちの使命でした。そのため、これらの手法を採用することで、プロジェクトのコントロールを強化していたのです。

司会 まだ世の中にない製品のための仕組み作りでは、プロジェクトが変化にさらされるようなことも多かったのではないでしょうか。

福田 たくさんありましたね。例えば、「どういうラインアップの商品をいつから販売するか」を決める場合も、LOVOTはこれから新しい市場を立ち上げていく商品なので、そもそも市場性がどれくらいあって、どうするのがベストな選択肢なのか――というところを、ギリギリまで調査したり、ポテンシャルユーザーにお会いして話を聞いたりしながら詰めていって決定します。

 LOVOTは現在、デュオ(ネストつきの双子のLOVOT)とソロ(1体のLOVOTとネスト)という2つのセットで予約を受けていますが、当初からそうだったわけではありません。

 こうした決断を1つとっても、システム的には決して小さい話ではないんです。最終的に決断したことがもし、今まで考えていたことと違っていたら、それがまさにプロジェクトに対する変化になり、対応を考えなければならなくなる。そのようなことが、いろいろな側面で起きていました。

司会 一度、プロトタイピングをストップしたことがあったとか。

福田 ECやサブスクリプション、出荷、在庫管理など、さまざまなシステムを作っていく中でプロトタイピングをしていったのですが、あるタイミングで一度、プロトタイピングをストップしました。

 システムを作るレベルまでのすごく細かい要件定義がその時点で完璧にできていたわけではなかったので、いったん、プロトタイピングを止めて、2週間半ぐらいかけてもう一回、全体像を見直す作業をしたのです。

 具体的には、ケンブリッジの梅澤さんに協力してもらって、検討すべき課題の全体像を示すマップ(ビジネス上必要なことを1枚の絵にまとめたもの)を作り、それぞれの領域で今、ミッシングポイントは何なのかをしっかり洗い出し、どんな順番で重ねていけばベストなのかを定義して、毎日、1つ1つ課題をつぶしていきました。きちんとプロトタイピングを再開できるレベルまで持っていくことをゴールに作業を進めました。結果的には、これをやって良かったです。

梅澤 この作業を通じて、企業内でビジネスを作ることの難しさについて、改めて考える良い機会になったと思います。

 一般的なプロジェクトでは、「現行の業務の課題は何か」――というアプローチから入るわけですが、既に動いている業務があれば、仮に業務分析を細かい部分までやりきらなくても、帳票を見ることで業務がどんなフローで流れていて、どんな関係者がいるかが分かります。

 しかし、まだ現行業務がないLOVOTの場合、ディテールの詰めの甘さがプロトタイピングに影響してしまうのです。だから、単にプロトタイピングを流していくのではなく、思い切っていったん止めて、ディテールの設定をやり直した方がいいのではないかと提案して、立て直しをはかりました。

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