この方向性を打ち出したとき、府庁の担当幹部は驚き、猛反発を受けましたが、世界の歴史に目を転じてみれば、それほど突飛(とっぴ)なアイデアではありません。
ベネツィア、オランダ、イギリス(英国)という覇権国家の変遷は、全て人・モノ・カネを中継する国の間で行われました。スエズやパナマという運河地域も人・モノ・カネを中継することで経済が活性化していますし、現在のシンガポールも中継都市国家として経済的に成功を収めています。
地域内で定住人口を増やす「産めよ増やせよ」の方向性は、高度成長時代のものです。成熟した地域・国家においては、「産めよ増やせよ」の方針から、国内外より人・モノ・カネを集める方針に転じるべき。
府庁の担当職員とも議論を重ね、最終的には「今までの方向性がうまくいっていた時代は終わった。大阪の衰退は、その方向性を保とうとしてきたからであり、大阪を蘇らせるにはこれまでと真逆のことをやらなくてはいけない」ということを理解してもらいました。
府庁は優秀な頭脳を持つエリート公務員たちで構成された組織です。いったん方向性が決まれば、圧倒的なスピードとクオリティーで具体的な政策を立案し、工程表を作って、それを実現していきます。
これは、外国人観光客を呼び寄せようというインバウンドが今のように強く叫ばれる前の09年頃の話です。当時は、日本には679万人ほどしか外国人観光客が訪れず、そのうちの170万人ほどしか大阪に訪れていなかった時代ですが、大阪はそのときに、インバウンドの方向性を強く打ち出し、その実行に取り組み始めました。
その結果、現在、大阪には大変多くの外国人観光客が訪れるようになりました。18年には京都を抜いて1100万人を超え、経済効果は1兆円以上にものぼります。東京と比べると、観光客の絶対数や経済効果額ともにまだ追いついていませんが、伸び率は大阪のほうが上回っているので、東京の背中が見えてきているところです。それと同時に、モノもカネも集まるようになり、大阪の経済指標が上向き始めました。
長年貫いてきたやり方を変えるのは、勇気のいることです。ましてや、今までの真逆を行くとなると、それまで一生懸命に「それが正しい」としてやってきたことを全否定しなくてはいけない。自分自身がやってきたことだけではなく、先輩や同僚がやってきたことをも否定しなければならない。もう少し続けてみれば結果が出るかもしれない、そう思ってしまうこともあるでしょう。
しかし、たとえ今までと同じ方向性の上に何らかの糸口があったとしても、せいぜい「今よりちょっとよくなる」程度の改良、改善につながるにすぎません。そこで、大胆に今までの逆をやってみる。つまり「逆張り」の発想を持って行動してみると、改良・改善などというレベルを超えた、圧倒的な結果を生み出す突破力を発する可能性が高くなります。
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