フィンテックで変わる財務

スマホ決済の勝者はこのまま「QRコード決済」になるのか? 一筋縄ではいかないこれだけの理由2020年がターニングポイントに?(4/4 ページ)

» 2020年02月28日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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「眠れる巨人」のJR、ドコモ

 そういった観点からキャッシュレス化ツールの「眠れる巨人」といえる存在であるのが、JR東日本の「Suica」に代表される交通系非接触電子マネーカードです。既にJR各社および民鉄系カードは全国レベルでの互換性が確保されており、鉄道が主な移動手段になっていない四国、沖縄を除いては、ほぼ国民1人に1枚状態。マイナンバーカード以上の普及率といえます。

 また「モバイルSuica」としてスマホとの一体化も果たしており、銀行口座からのリアルタイム資金移動により随時資金を補充すればカードをかざすだけで支払いが完了するという、日本人が古くから使い慣れているクレジットカードと変わらぬ使い勝手でもあります。現在はプール金額の上限が2万円ですが、この点を改善して大々的な普及運動を展開すれば、いつでもわが国最強のキャッシュレスカードに躍り出ることが可能なのではないかと思われるのです。

 もう1つ、同じ非接触型決済で忘れてはならないのが、NTTドコモの「iD」です。これも、スマホ上で機能するキャッシュレスツールで、プリペイド、リアルタイム決済(デビッド)、後払い(クレジット)機能を併せ持ったキャッシュレスの決定版的カードといえます。若者に多大なる影響力を持つお笑い芸人の松本人志氏が、自身が司会を務めるテレビ番組内でキャッシュレス生活をしている立場から、「これが1番」と推奨するキャッシュレスツールとしてiDを紹介。今ひそかに注目を集めています。

非接触型がQRコード決済を打ち負かすか(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

国営企業が故の強み、弱み

 一方でSuica、iD共通の弱点は、共に国営企業上がりの「官僚組織文化」が染み付いた大組織が運営しているという点です。進歩の流れが速いITビジネスの世界において、ある種“ワンマン経営者”の独断で即断即決の対応が可能なソフトバンク・グループや楽天と比べてこの点は圧倒的なマイナスポイントであり、これまでのところSuicaもiDもキャッシュレスカードとして大きな成果を上げられていないのは、この点が大きなネックになっていると思えます。

 逆にSuica、iD陣営の強みは、古くからの既得権に裏打ちされた巨大ビジネスに支えられた莫大な資金力です。PayPayで大型キャンペーンを打ち続けるソフトバンク・グループが、いくら資金力があるといってもしょせんは借り入れに頼った資金繰りであり、その裏付けはアリババはじめ所有株の含み益です。前期は投資先の大型赤字もあり、加えて依然予断を許さない中国の経済情勢次第では、その調達力に陰りが現れることもあり得る状況です。楽天に至っては、本業のEC事業分野でAmazonに完敗状態の中、やはり海外投資先の大きな赤字と携帯事業参入の一頓挫を受けて前期は8年ぶりの赤字決算となっており、現状収益に直結しないキャッシュレス分野で大きな投資はしにくい状況にあります。

 こうして考えてくると、わが国キャッシュレス化の行方は、現在主流のQRコード陣営でソフトバンク・グループと楽天の2強が生き残りをかけた決戦を控えていつつも、非接触型決済陣営に逆転される可能性も否定できない、そんな構図が見えてきます。逆転劇が可能なのは、旧公社2強で既得権インフラビジネスを持つJRグループとNTTグループ。もちろん、キャッシュレスビジネスがどこか1社の一人勝ちになるとは限りません。この「2強+潜在的2強」がどのようにして、時に戦い時に組み合いながら、周辺の他社も巻き込みつついかなる展開に転じていくのか。いずれにしても、われわれ利用者の利便性最優先での新たな展開となることを期待したいキャッシュレス転機のオリンピックイヤーです。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時は旧大蔵省、自民党担当として小泉純一郎の郵政民営化策を支援した。その後営業、マーケティング畑ではアイデアマンとしてならし、金融危機の預金流出時に勝率連動利率の「ベイスターズ定期」を発案し、経営危機を救ったことも。06年支店長職をひと区切りとして銀行を円満退社。銀行時代実践した「稼ぐ営業チームづくり」を軸に、金融機関、上場企業、中小企業の現場指導をする傍ら、企業アナリストとしてメディアにも数多く登場。AllAbout「組織マネジメントガイド」役をはじめ、多くのメディアで執筆者やコメンテーターとして活躍中。


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