クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

いまさら聞けない自動車の動力源の話 ICE編 1池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)

» 2020年03月02日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

ノッキングとの戦い

 しかし、吸気後、ピストンが圧縮を始めると、どうしても気体温度が上がる。圧縮すると温度が上がるのは気体の物理特性なので、いかんともしがたい。しかも燃料を含んだ混合気なので、ある温度を超えると、プラグの着火を待たず自己着火して燃え始めてしまう。その場合、燃焼してガスが膨張し始めているにも関わらず、ピストンが圧縮を続けるため、エンジンは設計強度以上の圧力を受けて壊れてしまう。これを早期着火という。

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 もうひとつ、異常燃焼という現象がある。燃焼室内の混合気は草原で火が燃え広がるように、短時間とはいえ火炎伝播(でんぱ)によって燃焼が広がる。着火点周辺の混合気が燃焼して膨張を開始すると、火炎がドミノ倒しのように広がっていく過程で、圧縮圧力は乗数的に増えて行く。燃焼室の端の方へ伝わる頃には、未燃焼の混合気に加わる予圧縮はケタ違いになっている。内燃機関は事前圧縮が高いほど多くのエネルギーを受け取ることができるので、プラスもあるのだが、それも程度問題。一定以上に圧力が高まると燃焼が暴走する。

 よく「吸気・圧縮・爆発・排気」と言う人がいるが、エンジニアはコントロールされている燃焼を「爆発」とは絶対にいわない。「吸気・圧縮・燃焼・排気」なのだ。

 コントロールを外れた燃焼は爆轟(ばくごう)に至る。爆轟とは衝撃波を伴う急速な燃焼だ。この衝撃波が燃焼室やピストン表面を覆う境界層を吹き飛ばしてしまう。熱い風呂に入ってじっとしていると、体の表面に少し温度の低い層ができる。だからかき回すと熱くなる。あれと似たように、金属表面には低温の保護層(境界層)ができているから、あの燃焼温度に耐えるのであって、境界層が無ければ金属は溶けてしまうのだ。この早期燃焼と異常燃焼を合わせてノッキングという。

 この問題があるため、本当はエネルギー効率のために上げたい圧縮比を我慢しなければならず、それがガソリンエンジンの熱効率改善の道を阻んでいる。つまり、どうやってこのノッキングを排除し、圧縮比を上げるかが技術的課題であった。

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