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新型コロナに苦慮するイベント主催者がオンラインイベントをやってみた中止? 延期? オンライン?(1/4 ページ)

» 2020年03月05日 08時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]

 新型コロナウイルス感染拡大が続く中、全国でイベントの中止や延期が相次いでいる。2月20日には、厚生労働省からイベント開催の必要性を改めて検討することを求める声明が出されたが、一律の自粛要請は行われなかった。26日になり、政府は今後2週間で開催されるイベントの中止や延期、規模縮小を要請する考えを示した。

 企業やコミュニティーのイベント主催者は、感染のリスクに関して正確な情報が得られないまま、健康・安全面のリスク、レピュテーションリスク、そしてイベント中止によって発生する損失へのリスク、その全てに同時進行で対応するという課題に直面した。

 実は2月25日にリアルイベントを控えていたアイティメディアのイベントチームもその当事者だ。2月17日までは、感染予防対策を強化するなどして会場で開催する準備を進めていたが、18日に観客を入れないオンラインイベントへの変更が決まり、翌19日深夜、今回の決定を告知した。この時点で本番までは3.5営業日。チームは混乱を極めた。

 本稿では、同様のケースで対応を迫られた方々へのインタビューを通し、「イベントを一律には自粛しない方針」の前に苦慮したイベント主催者たちの数日と、実際にオンラインイベントを実施しての気付きに焦点を当てる。

※ご協力くださったOSC 宮原徹氏、TECH PLAY 鳴釜優子氏、そして、多忙を極める最中ご対応くださったみなさまに心から感謝を申し上げます。

参加者同士の交流を大切にしてきた、あるコミュニティーイベントの決断

 オープンソースカンファレンス(OSC)は、「オープンソースの今を伝える」をテーマとした参加費無料のイベントだ。コミュニティーや協賛社、後援団体によるセッションや展示などが集結し、全国13都市で、年間14回開催している(2019年実績)。参加者は、オープンソース界の重鎮やこれからオープンソースを使ってみたい学生、子連れのエンジニア夫婦など多岐にわたる。

 中止を決定したのは、OSC 15年の歴史の中で初めてのこと。主催者の宮原徹氏は、中止の理由や今後について快く教えてくれた。「同様の状況で判断に迷うイベント主催者の参考になれば」という考えからだ。

―― 中止を決定するまでの経緯を教えてください。

宮原 開催まで1週間を切った2月17日午前の時点では、対策を徹底し、開催する方向で調整を進めていました。ですが、翌18日午後、OSCを開催して感染が広まるようなことがあれば問題になると判断し、中止を決定しました。

 OSCの運営は事務局メンバー全員で行っているのですが、最終的な中止の決定は事務局責任者である私が単独で行いました。判断にあたっては、協賛社からの出展キャンセルが増えてきたこと、会場側もノーリスクとは考えていないこと、日本国内での感染状況(特に感染経路が把握できない感染者が出てきていること)を考慮しました。顔を合わせたコミュニケーションを重視しているOSCとしては、リスクがゼロとは言い切れないと判断しました。

―― オンラインでのOSC開催は検討されていますか?

宮原 オンライン化も視野に入れています。実は、今回の中止とは関係なく、動画配信を検討していました。

 一方で、私自身、オンラインでセッションを視聴するより、文字起こししてくれた記事を読む方が好きなんですよね。また、参加者同士の交流を重視してきたイベントなので、やり方は工夫しないといけませんね。

―― 中止を決定して感じたことは?

宮原 今回の中止は非常に残念ですが、一方で、いろいろな方から励ましの言葉をいただき、OSCがたくさんの方に支えられていることを改めて実感しました。新型コロナウイルスの影響が収まったころに、一度皆さんで集まれる機会を作れたらと考えています。

2019年の「OSC2019 Tokyo/Spring」懇親会の様子

 「OSC2020 Tokyo/Spring」の公式サイトでは、発表予定だった講演資料を随時公開していく。「開催は中止しましたが、OSCは終わりません。次回に向けて少しでも痕跡を残していきたいです」(宮原氏)

想定来場数を超える視聴者数、オンラインイベントの可能性

 イベントの企画・運営から会場提供までを手掛けるTECH PLAYは、エンジニアイベント「sight update session」(パーソルキャリア主催/Sky協賛)において、会場での開催を中止し、オンラインでのライブ配信に切り替えた。

 この決定を下したのは、開催前日の2月20日のことだった。延期も検討したが、業界のトップを走る登壇者たちは多忙を極めている。再度スケジュールを合わせる難しさもあり、思い切ってオンラインイベントに踏み切ったという。担当する鳴釜優子氏に話を聞いた。

―― 実際にオンラインイベントを実施して感じたメリットを教えてください。

鳴釜 まずは、地方在住の方が東京で開催されている勉強会の内容を知ることができる点でしょうか。また、自分のペースで視聴できる、視聴しながらSNSに投稿する、ググる、といった同時作業がしやすいことですかね。

―― 視聴者数はどうでしたか?

鳴釜 実は、会場に来場いただく予定だった人数よりも多くの方が視聴してくださいました。オンラインイベントの可能性を感じましたね。

―― 難しい点はありましたか?

鳴釜 会場でのイベントであれば、参加者の反応を間近で見ながら話す内容を変えていけますが、それと比較すると、オンラインイベントは反応が分かりにくいですね。インタラクティブなコンテンツを作ることが難しいなと感じました。

―― 協賛のSkyは、今回の決定をどう捉えていらっしゃいますか?

鳴釜 当初は、申込者のみが来場可能なイベントだったのですが、「せっかくライブ配信するのであれば多くの方に視聴していただきたい」というSkyさんと登壇者のご協力もあり、どなたでも視聴可能な形に切り替えました。

 「sight update session」は、「テクノロジーによってさまざまな業界がどうアップデートされているのか」を深掘りすることがテーマです。Skyさんと私たちも、「イベントや情報発信も、新しいチャレンジをしてみよう」と一致団結したように思います。

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