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» 2020年03月11日 05時15分 公開

磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」:55億円をだまし取られた「地面師事件」が発端 積水ハウスで勃発した“ガバナンス巡る激突”の深層 (1/3)

東京・西五反田の土地に絡んで、積水ハウスが偽の所有者との売買契約を結び、55億円をだまし取られた「地面師事件」――。この事件を発端として和田勇・前会長兼CEOと現経営陣との間で“ガバナンス巡る激突”が繰り広げられている。経営権を争う戦いから浮かび上がる「経営者の条件」とは。

[磯山友幸,ITmedia]

 投資家が企業を選ぶ尺度としてESGが重視されるようになってきた。ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもので、海外投資家から始まり、今では日本の機関投資家も重視するようになってきた。中でも日本では、企業のガバナンス不全が長年指摘され続けており、この改善が大きな課題になっている。

 今年も株主総会に向けた「モノ言う投資家」の動きが始まっている。前哨戦ともいえる3月総会(12月期決算企業)では、キリンホールディングスの2%超の株式を保有するとみられる英投資会社フランチャイズ・パートナーズが、社外取締役の選任と自社株買いを求める株主提案を提出、キリンHD側はこれを全面的に拒否し、株主総会で争う構えだ。

 また、4月総会(1月期決算企業)では積水ハウスの和田勇・前会長兼CEO(最高経営責任者)らが、取締役の総入れ替えを求める株主提案を提出。これも会社側は全面的に拒否しており、総会に向けてプロキシーファイト(委任状争奪戦)になることが確定的になった。

phot 株主総会に向け「モノ言う投資家」の動きが始まっている(写真提供:ゲッティイメージズ)

前会長「業界の常識では考えられない異常な取引」

 いずれも、ガバナンスの在り方が問われているが、とくに積水ハウスの場合、ガバナンスを巡って両者が激しく対立している。

 実は、和田前会長は2018年1月に、現経営陣によって事実上解任されている。17年に発覚した「地面師事件」での責任を問い、阿部俊則社長(当時。現在は会長)の解任を迫ったところ、逆に返り討ちにあって会長職を追われた。阿部氏ら現経営陣が事件の実態解明を阻んでいるというのが和田氏の主張で、全員の交代を求めている。

 問題の地面師事件は、東京・西五反田の土地に絡んで、積水ハウスが偽の所有者との売買契約を結び、同社が55億円を騙(だま)し取られたもの。本物の所有者から契約は偽であるという内容証明郵便が会社に繰り返し届いているにもかかわらず、取引を強行したことや、7月末までの代金支払いを2カ月前倒しで支払ったり、振込ではなく、預金小切手で支払ったりするなど、「業界の常識では考えられない異常な取引」だったと和田氏は指摘する。

phot 地面師事件では、東京・西五反田の土地に絡んで、積水ハウスが偽の所有者との売買契約を結び、同社が55億円を騙(だま)し取られた(写真提供:ゲッティイメージズ)

 和田氏らは、これを単なる詐欺被害ではなく、阿部俊則・現会長(事件当時・社長)らが「経営者として信じ難い判断を重ねたことによる不正取引」だと断じている。

 これに対して積水ハウスは、3月5日に取締役会を開いて株主提案に反対することを決議。地面師事件については、「不正取引は存在しません」と全面的に否定している。また、調査報告書の公開を拒み続けるなど、「隠蔽(いんぺい)を続けた」と和田氏らが主張していることについても、真っ向から反論して、こう述べている。

 「2018年3月6日付の適時開示文書として、『分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告』を公表しており、『地面師事件』の経緯概要、発生原因、責任の所在、再発防止策及び処分の内容に至るまで網羅して記載しております」

 この文書には調査報告書の結論が引用され、阿部社長(当時)の責任について「業務執行責任者として、取引の全体像を把握せず、重大なリスクを認識できなかったことは、経営上、重い責任があります」としている。しかし、事件の具体的な内容についてはほとんど触れられていない。その点については、「地面師事件の模倣犯を生じさせかねないことへの懸念や捜査上の機密保持及び個人のプライバシーへの配慮のため」だとしている。まったく主張が噛(か)み合っていないわけだ。

 果たして、株主総会ではどんな結論になるのか。

phot 2018年3月6日付の適時開示文書「分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告」で触れられている事件の経緯概要(以下、積水ハウスのWebサイトより)
phot 事件の具体的な内容についてはほとんど触れられていない
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