#SHIFT

55億円をだまし取られた「地面師事件」が発端 積水ハウスで勃発した“ガバナンス巡る激突”の深層磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(2/3 ページ)

» 2020年03月11日 05時15分 公開
[磯山友幸ITmedia]

海外投資家と機関投資家の判断に注目

 和田氏らが株主提案した取締役選任議案では、和田氏のほか、19年6月まで常務執行役員だった藤原元彦氏、同じく19年まで北米子会社のCEOだった山田浩司氏、現役の取締役専務執行役員である勝呂文康氏の4人の積水ハウス関係者に加えて、米国人のクリストファー・ダグラズ・ブレイディ氏ら7人の独立社外取締役を候補としている。社内4に社外7という構成だ。

 一方、5日に会社側が決めた取締役候補は社内8に社外4という構成。阿部会長や仲井嘉浩社長ら4人の代表取締役はいずれも留任するほか、4人の社内取締役のうち1人を交代させる。退任するのは、和田氏側の株主提案に名前を連ねた勝呂氏だ。

 積水ハウスは、和田氏の解任以降、ガバナンス改革を進めてきたと強調している。実施した施策として掲げているのが、(1)代表取締役の70歳定年制、(2)取締役の担当部門の明確化、(3)議論活性化のための経営会議の設置、(4)取締役会の実効性評価の実施――の4点。また、4月の総会で社外取締役を4人に1人増員するのは、社外取締役の比率を3分の1にするためだとしている。

phot 2018年を「ガバナンス改革元年」と位置付けた積水ハウスグループの「コーポレートガバナンス体制強化への六つの項目」など

 「18年以降、徹底したガバナンス改革によりガバナンスは強化されている」と自らのガバナンス改革に胸を張る。一方で、和田氏らが提案する社外取締役候補者については、「住宅・不動産ビジネスに関する知識・経験を有していることが窺われる候補者が一人として含まれていません」と一蹴している。

phot 株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ(以下、積水ハウスのWebサイトより)

 果たして、株主総会では誰が取締役に選ばれるのか。帰趨(きすう)は海外投資家や機関投資家がどう判断するかにかかっている。

 積水ハウスの発行済み株式数は、19年1月末現在で6億9068万株。大株主名簿ではトップは日本マスタートラスト信託銀行の信託口となっているが、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」が、19年3月末で同社株を5872万9500株保有していることを公表しており、発行済み株式数の8.5%に相当する、実質の筆頭株主とみられる。次いで、もともとの母体であった「積水化学工業」が6.1%を保有する。さらに、米投資会社のブラックロック・グループが合計6.16%を保有していることが分かっている。

 ブラックロックを合わせた外国人投資家の保有比率は、19年1月末段階では全体の22.7%に達している。海外投資家はESGに敏感で、地面師事件のような不祥事を起こした経営者には厳しい。米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)など、議決権行使助言会社が、阿部氏ら現職代表取締役に反対票を投じるよう推奨するようなことがあれば、海外投資家は再任に反対に動く可能性が高い。

phot 積水ハウスのWebサイトに掲載されている2019年1月31日現在の大株主

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.