「五輪強行」のほうが経済的損失が大きい、3つの理由スピン経済の歩き方(5/7 ページ)

» 2020年03月17日 09時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

インバウンドバブルの実態

 そう聞くと、「そのためにも世界の人々が楽しみにしている五輪を開催することが必要なのだ!」と考える人もいるかもしれないが、「五輪開催」にはそこまでの効果を求めるのは「過大評価」だ。

 日本人は1964年の東京五輪のせいでこのスポーツイベントを、全世界の人々を熱狂させる夢の祭典のようなイメージを持っているが、実はそういう感覚は日本を含めて数えるほどしかない。アメリカからすれば、バスケ、アメフト、メジャーリーグ、アイスホッケーがやっていないオフシーズンに放映されているスポーツ大会くらいの位置付けだし、ほとんどの国では「へえ、オリンピックって今年だったんだね」くらいの認識のイベントなのだ。

 例えば、昨年10月、日本政策投資銀行と公益財団法人日本交通社に公表した「DBJ・JTFB アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2019年度版)」という世界の12地域、6000人を対象とした調査がある。それによれば、アメリカで東京2020を「知っている」と回答したのはわずか34%、オーストラリア(38%)、イギリス(39%)、フランス(40%)と欧米豪では3〜4割の人しか関心がないスポーツ大会なのだ。

 この傾向はASEAN諸国でも同様で、タイは22%、シンガポール17%、マレーシア16%、インドネシア21%と欧米豪よりもTOKYO2020の認知度が低い。

 もちろん、日本並に関心を持ってくれているありがたい国もある。75%という驚くべき割合が「知っている」と回答した中国、そして台湾(66%)、香港(55%)、韓国(49%)である。これらだけで訪日外国人観光客の7割を占める。つまり、日本の”インバウンドバブル”を支えてくれている人々でもあるのだ。

 もう何を言わんかお分かりだろう。残念ながら世界ではTOKYO2020にそこまで思い入れはない。このイベントに関心が高いのは「日本経済の起爆剤に!」と叫ぶ我々と周辺国だけなのである。では、世界がそこまで思い入れのない五輪を、新型コロナの感染リスクがくすぶるこのタイミングで強行した場合、日本という国は、ヨーロッパ、アメリカ、ASEAN、そしてこれから感染が広がる恐れがある南半球の国の人々の目にどう映るだろうか。

 「おお! さすが日本だ! ますますファンになったぜ!」なんてリアクションをする外国人は少なく、「へえ、これだけ世界中で流行している中で、スポーツイベントをゴリ押しするなんて日本って国は変わってるな」と冷ややかに見る国が圧倒的に多いだろう。

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