新品の電車はどうやって運ばれる? 線路をどこまでもつなぐ、2つの理由杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2020年04月03日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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「貨物輸送訓練」は鉄道ネットワーク維持の責任

 前述のように、えちごトキめき鉄道は「日本海ひすいライン」で貨物列車を走らせている。「妙高はねうまライン」も直江津駅で「日本海ひすいライン」とつながっているし、南側の妙高高原駅でつながる「しなの鉄道」もJR線とつながっているから、JRと同等の保安設備を有し、コストを負担している。だからこそJR貨物の機関車が乗り入れできる。

 また、しなの鉄道、JR東日本、さらには北越急行と直通運転を実施し、沿線の人々に対して鉄道サービスを維持し、旅客収入を上げられる。

えちごトキめき鉄道社長、鳥塚亮氏

 「妙高はねうまライン」では、今回のような「しなの鉄道の車両輸送」以外に貨物輸送の予定はない。しかし、もし、しなの鉄道への車両輸送を断り、「日本海ひすいライン」と「しなの鉄道」とつながる線路を切断したら「妙高はねうまライン」の保守費用は下げられる。経営が厳しい第三セクター路線なら、そんな経営判断もできたはずだ。

 それでもえちごトキめき鉄道は「妙高はねうまライン」の保安水準をJR路線並みに維持する。そして、定期運行がない貨物輸送能力を維持するために訓練運転を実施する。それは、めったにない「しなの鉄道への新車搬入」のためだけではない。「日本海縦貫ルートの迂回経路を維持する」という目的があるからだ。鳥塚亮社長いわく「鉄道事業者として、国土のネットワークを維持する責任がある」

 「日本海ひすいライン」を含む日本海縦貫ルートは、京阪神と東北・北海道を結ぶ物流の動脈だ。これに対して、「妙高はねうまライン」は直江津〜妙高高原〜長野〜篠ノ井〜名古屋を結ぶルートの一部となる。普段使っているルートに災害等があり不通になったとき、サブルートを確保しておけば、遠回りになったとしても物流を確保できる。

 東日本大震災で常磐線、東北本線が不通になったとき、磐越西線ルートで横浜から東北方面へ燃料輸送が行われた。線路がつながっているから、そして、維持していたからできた。

 線路がつながっていることは有事の時に重要だ。しかし、第三セクターや中小私鉄にとって、現状の枠組みでは平時の維持負担は大きい。鉄道ネットワークの維持は地方鉄道の経営問題とは切り離し、輸送政策の保険の一つとして捉えたい。本来、隣り合う鉄道の軌間が同じなら、つながっているべきだ。

貨物列車ネットワークと、えちごトキめき鉄道の関係。妙高はねうまラインは大阪、名古屋、東京と日本海側を結ぶパーツの一部ともいえる(地理院地図を加工)

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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