9000億超の赤字 結局、ソフトバンクの経営は本当に危ういのか古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2020年05月08日 08時23分 公開
[古田拓也ITmedia]
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ソフトバンクがそれでも借金するワケ

 それでは、なぜソフトバンクは年間数千億円にもなる利息を支払いながら、株式ではなく有利子負債によって買収や投資を進めるのだろうか。それはデットファイナンスの方がお金を貸す投資家にとっても、ソフトバンク自身にとっても都合のよい資金融通の方法であると考えられるからだ。

 まず、ソフトバンクへお金を貸す投資家のメリットを考えてみよう。彼らにとってデットファイナンスを用いるメリットは、特に大規模の資金を運用したいファンドや金融機関が、比較的低リスクで資産運用できる点が大きいだろう。借り手であるソフトバンクが仮に倒産した場合でも、31兆円程度の保有株式をはじめとした同社の資産から優先的に弁済を受けることができるため、現時点ではエクイティ(株式)による出資と比較して資金を失うリスクは低い。

 次に、ソフトバンクが好都合と考える要因を考えてみよう。同社がデットファイナンスの方が好ましいと考えうる要因としては3点考えられる。

 1つは、自社の支配力を維持したまま事業を継続できることだ。エクイティファイナンスについて、株式交換による資金の調達では、自社内に複数の影響力ある株主が誕生し、経営の意思決定スピードが遅くなるリスクがある。

 また、増資によるエクイティファイナンスとの比較で考えても、デットによる資金調達の方がコスト面で安上がりになる。なぜなら、エクイティ投資家は弁済などの面でデットの投資家より高いリスクを取っている。エクイティの投資家としては、最低でもデットの投資家がもらい受ける利息より高いリターンがなければ投資妙味がない。その結果、デットの投資家に支払う利息よりも株主還元の方が高コストになってしまう。

 デットによる資金調達であれば、投資が成功した時の値上がり益と配当が自社に多く配分されるため、支払利息を加味したとしても、全体としての資金調達コストは、エクイティファイナンスと比較して安く抑えられるというわけだ。

 そのため、デットによる資金調達にすることで、投資が成功した時の値上がり益と配当が自社に多く配分されるため、全体としては調達コストが安く済むというわけだ。

 最後に見逃せないのは税金面である。デットファイナンスによる支払利息は、税務上経費算入できる。ソフトバンクの資産にレバレッジをかけると同時に支払利息を経費算入し、利益圧縮を図ることで、資本効率を一層高めるという狙いもあるだろう。

虎の子「アリババ」の売却に踏み切るか

 そうはいっても、やはりデット依存のファイナンスは信用力の低下という問題がつきまとう。格付け会社のムーディーズは、今年の3月にソフトバンク社債について「投機的」といわれる「Ba3」まで、一気に2段階格下げした。携帯事業による安定的なキャッシュフローが期待されているとはいえ、一部ではその信用力に疑問符がつく状況になっているようだ。

 これまでソフトバンクが買収してきた企業は、比較的収益や将来キャッシュフローの見通しが立てやすい安定ビジネスであった。しかし、今回の赤字については、やはり単年での業績変動が大きい非公開企業への投資が裏目に出た形となる。

 しかし、これだけをみて直ちにソフトバンクが危ういということはできない。上記で触れたとおり、ソフトバンクは携帯事業による安定的なキャッシュフローが見込まれる。それだけでなく、ソフトバンクには時価総額を大きく上回る31兆円もの保有株式がある。難局となったとしても、保有株式の半分程度を占めるアリババグループ株を売却するといった対応で、いったんのところは乗り越えられる体力があると筆者は考える。

 しかし、通信子会社のソフトバンクを上場させてしまった今、アリババなどの保有株式放出が、短期的に多額の資金を用意する最後の手段でもあるといえるだろう。仮にソフトバンクがアリババ株の売却に手をつけた場合に注意すべきは、次の失敗が今度こそソフトバンクにとって大きな打撃となり得るということだ。

 多額の含み益を抱える資産の後ろ盾が弱まってしまうと、これまでの積極的な姿勢を改め、慎重な事業方針に舵(かじ)切りせざるを得なくなる可能性がある。

 このように考えれば、ソフトバンクグループの経営が直ちに危うくなるとはいえないだろうが、従前のような成長性が期待できなくなることによる企業価値の剥落(はくらく)が発生する可能性について注意すべきだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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