クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

RAV4 PHV 現時点の最適解なれど池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2020年06月15日 07時50分 公開
[池田直渡ITmedia]

500万円の理由

 ということで、トヨタはRAV4 PHVを次世代システムとして市場投入した。世間のうわさは知らないが、これは早目対応の部類だと思う。理由は簡単。500万円のクルマはそうたくさん売れないからだ。売れ行きの主流がHVからPHVへ移行するには、PHVが250万円程度で売れるようにならなくては無理だ。たった18.1kWhのリチウムイオンバッテリーでも、こんな価格になってしまうのだ。まあそこにはトヨタ一流の見切りもあってのことだが。

床下に18.1kWhのリチウムイオンバッテリーを積む。プリウスPHVの電池容量は8.8kWh、日産のEVであるリーフは最大で62kWh、テスラのModel Sは最大で100kWh

 トヨタは「どんなに頑張っても、車名別販売台数トップ10に入れるほど安くは作れない」ことを前提に、RAV4 PHVの性能を決めたのだと思う。EV航続距離95キロ。燃料を含めた航続距離は1300キロ。システム最高出力は225kW(303馬力)。ハイブリッド燃費は22.2キロ/リッター。0-100キロ加速6.0秒となっている。昨今のタガが外れたEVに比べれば俊足とはいえないが、乗用車、それも重量のあるSUVの加速タイムとしては立派な数字だ。そのために、モーターとインバーターを高出力化して、走行用リチウムイオンバッテリーも高出力化対応を行った。バッテリーだけでなく、いろいろちょい足ししてあるのが500万円の理由である。

 要するにいろんなものをギリギリまで削っても、「売れる」価格帯まで下がらないことを見越して、高いことを前提に、そこそこ富裕なユーザーが買ってくれるラインを想定して全ての性能を決めた。そのあたりは、ファミリーカー価格の中で真面目にバランスを取ろうとして、やっぱり値段を下げきれなかった日産リーフの苦労を横目で見ているからだろう。

 他銘柄との競争の話は置いたとすれば、そもそもTNGAの基本は「もっといいクルマ」である。少し前までのように、「走って楽しいかは知りませんが、燃費は最高です」みたいなクルマづくりをしたら、今のトヨタでは大変なことになる。ちょいプレミアムな人が喜ぶだけのクルマに仕立てて500万円で売る。それが今のトヨタの答えである。あと100万出せばテスラのモデルY。速さは文句なしにモデルYだが、いろんな意味で、誰もが選べるクルマではない。

 というあたりで、疑問をお持ちの方もいるだろう。「何でEVと比べるのか?」。それは正しく運用する限り、RAV4 PHVが実質的にはEVだからだ。「リチャージ可能」、それはつまり予充電可能ということなのだが、フル充電からカタログ値で95キロ走ることから見て、エアコンやヒーターを使ったとしても、1日の走行距離が50キロかそこらなら、RAV4 PHVは終日エンジンを使わずに走れる。

 毎晩自宅で通常充電を行い、電力で通勤距離をまかなえば給油は必要ない。エンジンに頼るのは休日のロングドライブだけで、そんな機会は、ユーザーの平均値を取れば月に1度か2度だろう。おそらく生涯走行距離の95%くらいはEVとして使われることになる。

 しかも航続距離は1300キロもあり、仮にそれ以上走るとしても数分の給油で済んでしまう。HV走行でエンジンがかかることが不愉快だと思う人でなければ、まず困るシチュエーションはない。つまり実用上のハンデが何もないのだ。なので、バッテリー価格が世評ほどには下がってこない現状において、RAV4 PHVは最適解だと思われる。ただし、500万円の価格を飲み込める人であれば。

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