フィンテックで変わる財務

25%還元のマイナポイント 2100万枚のマイナンバーカードを倍増させられるか古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2020年07月03日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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カード普及率増は期待薄?

 マイナンバーカードの保有者は長きにわたり伸び悩んでいるのが現状だ。16年に交付がスタートしたマイナンバーカードの保有者は、それから4年半後の6月1日現在で2100万人程度と、人口比ではわずか16.8%にとどまっている。

 マイナポイント事業では4000万人が制度を利用すると試算されている。20年9月から21年3月までの7カ月間で、マイナンバーカード保有者を最大で1900万人増加させることを見込んでいることになる。

 しかし、7750億円という巨額の予算が投じられたキャッシュレス還元で、その恩恵を最大限受けたはずのQR決済アプリ事業者でも、これほどのユーザーを1度に獲得できたわけではない。

 PayPayは7月1日に登録ユーザーが3000万人を突破したことを発表した。同社の資料によれば、キャッシュレス還元事業が始まった時点のユーザー数が1500万人であった。そこからわずか9カ月後の6月29日にユーザー数3000万人を突破したという。

PayPayのユーザー数は、キャッシュレス関連事業の間に倍増した(PayPay資料より)

 キャッシュレス還元事業の期間で1500万人ものユーザー獲得に成功したPayPayだが、20年度には822億円の営業赤字を計上している。PayPayの営業赤字の3倍近い金額を、マイナポイント事業は投じることになるが、その大部分が還元の原資であり、PayPayレベルの広告を打つわけではない。

 また、ダウンロードと本人確認で完結するQR決済アプリと比較して、マイナンバーカードはそもそもの取得のハードルが高い。そればかりか、仮にマイナンバーカード保有希望者が殺到した場合、各窓口にそれほどの受け入れキャパシティが安全に確保されているかも疑問である。ここから考えると、4000万人という制度利用者の見込みはやや強気にすぎるだろう。

本命はQR決済の統一規格化?

 しかし、マイナポイント事業にはもう1つの狙いがある。それは官民共同利用が可能なキャッシュレス基盤の構築だ。

 足元では、マイナポイントには楽天カードやエポスカードといったクレジットカード事業者の参入も多く目立つが、政府が念頭に置いたキャッシュレスサービスは「◯◯ペイ」といったQR決済サービスであると考えられる。

 総務省はマイナポイントの利用シーンとしてQR決済アプリを念頭においた事例を多く取り上げており、キャッシュレス基盤の普及に際して、統一QR規格の導入を念頭に置いた予算の配分を行なっているからである。

 日本においては各社が競うように独自のQR決済サービスを展開しており、原則としてサービスごとに違ったQRコードを提示しなければならない。この乱立するQR規格を統一するためにも、マイナポイント事業が関わってくることとなる。統一のQR規格は「JPQR普及事業」にて進行しているプロジェクトである。これが普及すれば、1つのQRコードで参加するすべてのQR決済サービスを原則カバーできるようになる。

 統一のQR規格から外れてしまえば、その会社のQRコードだけ別途用意しなければならず、特別対応を行わざるを得ない。そうすると外れた会社のQR決済は敬遠される可能性が高くなる。そこで総務省は、マイナポイントで消費者がキャッシュレスアプリを導入する動きを形成し、統一QR規格を同時に推進することで、QR決済アプリ企業がJPQRを導入するように仕向けていくという戦略であると考えられる。

 「他社がQR決済を出せば自社もQR決済を出す」という足並みを揃える点が日本企業の特徴と揶揄(やゆ)されることもあるが、「他社がJPQRにするなら自社もJPQRに」という具合に横並びの特徴を逆手に取って、キャッシュレスの利便性が高まる可能性がある。

 マイナポイント事業では、マイナンバーカードで顕著な成功を期待すべきではないかもしれない。むしろ、マイナポイント事業をきっかけに各社のQRコードがJPQRに統一され、キャッシュレス決済の利便性向上と、将来のキャッシュレス決済比率向上に大きく貢献することを期待すべきだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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