体験:ベルリン発、話題のチャレンジャーバンクN26とは何か(2/4 ページ)

» 2020年07月11日 07時00分 公開
[Masataka KodukaITmedia]

なぜ10分で銀行口座開設できるのか?

 銀行も時代の変化に応じて変わってきている。日本のネット銀行では、郵送手続はあるものの、ビデオチャットなしで口座開設完了できる。その他、大手銀行、例えば三菱UFJ信託銀行でも、ネットと郵送のみで口座が開設できるようになってきている。しかし、それにしてもN26での約10分での銀行口座開設は、これまで体験したことがなく、とても不思議だ。日本の大手都市銀行に約30年勤務する別当氏(仮名)に銀行の専門家としての見解を聞いた。

 ――銀行利用者としての素人的で素朴な疑問ですが、日本/ドイツを問わず、従来の銀行では口座開設にあたり、

  • 支店に出向く
  • 運転免許証、無い場合は住民票、健康保険証など身分証明書を提出する
  • 書類に署名する
  • 日本の場合は捺印(なついん)する
  • 収入証明とおおよその年収を申告する
  • 勤務先を報告する

などの手続きが必要でした。

 一方N26ではなぜ、リモートのビデオチャットでパスポートを出して、生年月日などを答えるだけで、10分で口座開設ができるのでしょう。そもそも、従来の口座開設業務は、現代では形骸化しているのでしょうか? それとも、その旧来の業務を簡略化できるだけのシステム的な担保がN26にあるのでしょうか?

別当氏 「まず、昔はともかくとして、マネーロンダリングなどの規制が非常に厳しい現在では、口座が、“実在する本人のもの”であることが絶対条件です。逆にいえば、そこ(確実に「ユニークであること」が保証されるソーシャルセキュリティコード)だけクリアできれば、他のこと(印鑑や署名など)はデジタル化でなんとかなると考えています」

 「で、今回の小塚さん(筆者)のケースですが、発行国にもよりますが、パスポートはものすごく有効なIDです。銀行の口座開設システムが、もしも裏で、そのパスポート番号を管理するデータベースと連携していたとしたら、最強の身元証明ですね。ビデオチャットだと偽造品が分かりにくいというのはあるでしょうが、そこは割り切りでしょう」

 ――なるほど、確かにビデオチャットでパスポートを手にして、指定された幾つかのアクションを行いました。あれは、偽造品かどうかを確認するためのアクションだったのでしょうね。

別当氏 「日本では、確実に『ユニークであること』が保証されるソーシャルセキュリティコードの確立を行おうとしても、統一されたIDがありません。マイナンバーカードも普及しておらず、銀行口座とマイナンバーとのひも付けも頓挫していると聞きます。しかし逆に、マイナンバー提出が必須の証券口座では、ネットでの申し込みから郵送なしで3日後には開設が完了します」

 ――IDを管理する社会全体のシステムの違いなのでしょうか? それが未確立なので、未だに住民票とハンコなどを使うのでしょうか? 正直、ハンコが何の役に立っているのか分かりません。

別当氏 「日本では結局、警察(国家公安委員会)の管理にある運転免許証が、一番信頼性が高いです。ハンコの捺印は、ある種の惰性業務です。銀行でも、社内決裁業務などで、PDFデジタルサインが採用され始めています。ほとんどの業務はこれで十分です。遅ればせながらですが、お客さま関係でもハンコは不要になっていくはずです」

 ――海外に在住していると、日本の銀行でハンコを押すためだけに帰国、ってケースもありますので、そういう未来が来ることを私も願います。実際、きちんと管理されたIDと、それを管理する仕組みだけが必要で、他の口座開設業務は既に形骸化している、そのため、こういうネット銀行の簡単開設サービスが登場することになった、という時代の流れが見えてきました。

 さて、口座開設で従来行ってきた手続き、残る「収入証明とおおよその年収の申告」と「勤務先報告」なのですが、これは何の役に立っているのですか? 「その人を信頼できるか」、ぶっちゃけて言えば、「融資可能かどうか」の参考資料ですか?

別当氏 「ええ、昔は本当にそれで判断していたのですが、社会も変わると貸す側にも知恵がついてきたということです。銀行には、お金を集める側面(預金受け入れ)とお金を貸す側面がありますが、銀行本体にとってもうけが出るのは貸す方ですからね。所得証明は、今でもお金を貸す時に、多少役立ちますが、それよりも毎月の入出金、お買い物履歴など、他のデータでいくら貸せるか判断することにチャレンジすることが、今のトレンドです」

 「このN26ですが、新しい形態でお金を集める側の運営コストをとても軽くできるのは、古い銀行側から見ると本当にうらやましい限りです。ただし、低コストで集めたお金をどう運用するのか、そしてN26としての利益がどこから出ているのか、従来の銀行員としては、とても気になります」

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