特に子どもは「大人たちの会話」を、大人が考える以上によく聞いているので、大人が「あそこの子は東京から来たから○○」だの、「コロナに感染するのはだらしがない生活をしてるから」だのと言っていると、子供のいじめにつながってしまいかねません。社会的スティグマを生むのは、「私の発言」も関係しているという自覚を持つことが極めて重要です。
WHOでは2月の段階で、社会的スティグマの防止と対応のガイドラインを公表しましたが、こういった情報もリスクコミュニケーションでは大切なのに、日本では扱いは極めて限定されていました。
一方、件のミュンヘンの事例は、まさに社会的スティグマの予防にも効果的。ネガティブな言葉ではなく、窓を開け換気をする、手を洗う、おしゃべりは横に並んでする、といった言葉を日常的に繰り返すことも不安軽減につながります。
くしくも、「新型コロナに感染するのは本人が悪い」と考えていた人の割合が、日本では11.5%で、米国(1%)、英国(1.49%)、イタリア(2.51%)、中国(4.83%)と比べてかなり高かったという調査結果が公表されましたが、社会的スティグマの予防がほとんど行われていないことも、少なからず影響があるのではないでしょうか(調査は大阪大教授ら心理学者の研究グループによる。対象は日本、米国、英国、イタリア、中国の5カ国でそれぞれ約400〜500人)。
隣人や自分と同じ土地に暮らす人々を、敵と見なすか? 同胞と見なすか?
「私」も、いま一度立ち止まり、リスクと差別を分けて考えてほしいと心から願います。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)
新刊『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)が発売になりました!
失業、貧困、孤立――。新型コロナウイルスによって社会に出てきた問題は、日本社会にあった“ひずみ”が噴出したにすぎません。
この国の社会のベースは1970年代のまま。40年間で「家族のカタチ」「雇用のカタチ」「人口構成のカタチ」は大きく変化しているのに、それを無視した「昭和おじさん社会」が続いていることが、ひずみを生み続けています。
コロナ禍を経て、昭和モデルで動いてきた社会はどうなってしまうのか――。
「日経ビジネス電子版」の長期連載を大幅に加筆し、新書化しました。
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