原価低減はマイナス115億円となっておりコストアップだ。ここはあまりほめられない。いちいちトヨタを持ち出すのは申し訳ない気もするが、トヨタはこういうところで絶対にプラスを作ってくる。それは企業の基礎体力を測るかなり重要な項目だ。
ここであえて触れておく。原価低減というと、やれ下請けいじめだという話になりがちだが、トヨタの原価低減はそういうやり方ではない。トヨタ生産方式の総本山であるトヨタは、どこのどんな生産に対してでも、カイゼンの方法を見つけ出す。
その手順はこうだ。トヨタはサプライヤーの生産現場へ赴いて、生産の方法をつぶさに観察する。その上で、どこをどう変えるべきかを見つけ出し、やり方を指導してコストを必ず削減させる。しかる後に下がったコストに見合う値下げを要求するのだ。トヨタの調達担当の幹部とこの話をしたことがあるが、「必ず原価低減の指導を先に行ってから、コスト低減の要求をしないといけないんです。そうしないとサプライヤーが潰れてしまう」と、トヨタの原価低減の大原則を説明した。
余計なお世話と思うことなかれ、指導を受けたサプライヤーは生産コストが下がるのだから、仮にトヨタ以外にも部品を供給していたとすれば、他の納品先に対しては、やり方を変えてコストを下げた分だけ、利益が増える。
あるいはそちらも同様に下げさせられたとしても、同業他社に対して価格面で圧倒的に優位に立てる。同業他社は、トヨタのアドバイスなしで、自力でコスト低減を編み出さないと競争に勝てなくなっていくのだ。
そうした競争を通して、トヨタは日本のサプライチェーン全体を無駄のない競争力の高い状態に引き上げる活動を行っている。日本の自動車産業が世界でいまでも戦い続けていられるのは、ここにものづくりの要諦があるからだ。
常識的に考えて、自動車のように大規模なサプライチェーンを持つ産業で、下請けをいじめて下請けの体力がなくなればどうなるか。研究開発もできない、設備投資もできなくなって、部品メーカーの競争力はどんどん失われていく。そしてその部品を使っている自動車メーカーの製品もまた競争優位を失っていくのだ。
ゲーム理論的にいえば、原価低減は将棋のような2人で争う「どちらかが勝った分、どちらかが負ける」零和ゲームではなく、もっと多人数で行われるゲームだ。なおかつ協力プレーが可能である。取引関係のあるメーカーとサプライヤーは協力プレーをする仲間であって、この仲間の中で情報を公開しながら、“不完全情報”な他チームと戦うのである。
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