鉄道の利用者は通勤客だけではない。通学定期券については「学校で学ぶ」という習慣があるうちはなくならない。通学費用は家計が負担しているから上げづらい。鉄道事業者は少子化に向けて沿線人口の確保を推進している。「定期券が安い」ことは沿線価値の向上につながる。学校が全て通信制に移行するとは考えにくい。むしろネットで学べない要素を学び、体験させる場所が学校だ。
では、通勤通学ではない客に対してはどうか。割引のない普通運賃について「時間帯変動運賃」を導入できるか。これも前述のように、運賃の値上げはしにくいから、空いている時間帯を割り引くという施策になるだろう。現在も実施している「時差回数券」のような仕組みを継続、発展させる。IC乗車券で乗降時間を管理し、チケットを発行する。路線バスの一部で実施されているバス利用特典サービス「バス特」方式が考えられる。
これだけでは不十分というなら、鉄道会社の料金施策規制を緩和するしかない。運賃認可制度の終了、あるいはヤードスティック制度の見直しとなる。しかし、これを鉄道事業者が主張すれば「私たちの鉄道は公共事業ではありません」と宣言するようなもの。企業としての大義名分を失う。
……となれば、鉄道事業の増収策は限られる。運賃以外の料金を上げていく。特急・急行料金、グリーン料金、座席指定料金など、届け出制の料金は鉄道事業者の裁量だ。このアイデアの一つがローカル線の観光列車ともいえる。どんなに集客しても運賃以上の売り上げはないから、食事や居心地のよい車両を提供し、その付加価値に対して料金を設定する。
ただし、大都市の有料座席通勤電車は今のところこの考え方とは違う。時々、「少子化を見据えて客単価を上げる」という解釈を見かけるけれど、これは間違い。本気で客単価を上げたいなら、300円や400円の指定席料金では足りない。
通勤電車の定員は約150人。ここにはつり手や手すりをつかむ人も含まれる。乗車率180%の場合は約270人。座席指定列車の席数は約40だから、約7分の1。つまり、混雑列車と同じ売り上げを座席だけで確保するためには、少なくとも運賃の7倍以上の料金をいただかないと釣り合わない。
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