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リモートワーク普及で迫りくる「通勤定期券」が終わる日杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2020年07月17日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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通勤しない「ニューノーマル」時代

 定期券に話を戻すと、現在は「リモートワークにメリットは小さい」と考えている企業にとって、次のリモートワーク推進のトリガーが「通勤定期の値上げまたは廃止」になるだろう。通勤費負担が大きくなる。背に腹は代えられない、という状況になる。リモートワークの普及によってオフィス賃料は下がるかもしれない。

 社員がどこに住んでいようと在宅経費補助は変わらない。必要機器の需要増、低価格化でコスト負担は減るかもしれない。そこには5Gによる通信環境の向上も関わってくる。さまざまな要素が絡んで、企業が支払うコストをめぐって、不動産業界、交通業界、IT業界のぶんどり合戦になってくる。

 今のところ大企業ほどリモートワーク移行のコストメリットは大きい。しかし、多様なコストのバランスによって、中小企業もリモートワークへ移行するだろう。鉄道事業者にとって、リモートワークという時流を見極める必要がある。大手私鉄はもともと沿線開発とセットで鉄道事業を進めており、関連事業として不動産、流通など生活関連事業の比率を高めている。その結果、鉄道需要が下がってもリスクを軽減できる素地はある。

 もしかしたら、通勤定期の売り上げが減った分を補うために「リモートワーク推進事業」を立ち上げるかもしれない。すでに東急グループは会員制サテライトオフィス事業に着手している。

東急電鉄はサテライトオフィス事業を展開。「会社へ通勤しないけど、自宅では仕事をしにくい」需要に応える(出典:東急

 そしてJR東日本の「変革2027」を見れば、こう書いてある。

「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供」から「ヒト(すべての人)の生活における『豊かさ』を起点とした社会への新たな価値の提供」へと「価値創造ストーリー」を転換していく。

 「ニューノーマル」時代への準備はすでに始まっていた。新型コロナウイルスは、それをちょっとだけ加速させただけだ。

JR東日本も生活サービス会社へ舵を切った(出典:JR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」

(追記)
 本稿はここで終わるつもりだったけれど、7月13日に日本経済新聞が「小田急・東京メトロ、新宿に48階建て複合ビル」と報じた。新宿小田急百貨店から南口のミロードまでの長い敷地を建て替える。

 本格的なリモートワーク時代が到来する時代の都心に、新しいオフィスビルの需要があるか。しかし、リモートワーク時代だからこそ、鉄道事業者は「通勤に替わる都心方面への需要喚起策」を作る必要がある。

 今後、都心ターミナル周辺は、渋々と通勤電車で行く「仕事に便利な街」から、ビジネスの刺激を得るために出掛けたくなる「仕事も楽しい街」への転換が図られるはず。詳報が楽しみだ。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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