マーケティング・シンカ論

初週売り上げ、過去最高! 異例のロングスカートが生まれたワケ ヤフーと三越伊勢丹が見抜いた「隠れた欲求」2.6倍売れた(2/3 ページ)

» 2020年07月22日 07時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]

 まずYahoo! JAPAN IDの会員のうち、ブランドがターゲットとする「25〜35歳の女性」が、「服装」をキーワードに検索したデータを分析した。ヤフーが開発したディープラーニングのAIモデル「意図判定モデル」を用い、服装に関する困りごとや悩みごとにまつわるキーワードを抽出。その結果を基に、「ロングスカートに合わせる服で困っている」「身長面でロングスカートを着こなせるか悩んでいる」「シルエットを細く見せたい」といった仮説を立てた。

 次に、それまでの商品開発の手順通りに座談会を開き、参加者に対してこれらの仮説をぶつけてみた。すると、実はロングスカートの着こなしに関して多くの人が困りごとを持っていることが明らかになった。

photo データに基づいて立てた仮説を、実際に座談会でぶつけた=画像はヤフー提供
photo ヤフーと三越伊勢丹が開発したロングスカート=画像はヤフー提供

 そこで「体形をカバーできる」「自転車での巻き込みを防ぐために丈を短くする」「抱っこひもを付けたままでもポケットが使える」といった機能面での工夫を凝らしたロングスカート製品を開発し、19年9月下旬に発売。初週売り上げでは、過去一番売れたロングスカート製品と比べて約2.6倍の売り上げを記録したという。

 この成功の要因について、寺田氏は「人間ではなく機械が仮説を抽出したことにあるのでは」と考察する。

 「これまで(三越伊勢丹では)人間が組み立てた仮説に基づいて座談会でのヒアリングを行っていました。しかし人間が経験を基に導き出す仮説や、小人数のヒアリングの結果からは、なかなか『レアな意見』『隠れた欲求』を引き出すことができません。その点、ヤフーが持つ膨大な検索データからは、それこそ日本中でごく一握りの人しか言語化していない希少なニーズや意見をあぶり出せます。これらを基に仮説を立て、実際に座談会でユーザーにぶつけることで、消費者自身も意識していなかったロングスカートに対する潜在ニーズを顕在化できたのだと思います」

なぜ? コロナ禍で「アイマッサージャーの売り上げが伸びた」

 この例のように、DS.ANALYSISは基本的にはクライアント企業に対して個別にデータソリューションを提供するサービスだが、その成果は一企業だけにとどまらず、業界や社会全体の利益にかなうと考えられたため、クライアントの許可を得て結果をレポートとして一般公開した例もある。ヤフーが7月2日に公開した「Withコロナ時代の美容トピックス ─マスク編─」がその一例だ。

 これは美容系企業からの依頼を受け、美容業界でのコロナ禍の影響について調査した結果をレポートにまとめたものだ。新型コロナウイルスの感染拡大前後のYahoo!検索データやYahoo!ショッピングの購買データの変遷を分析したところ、「マスク」「セルフ美容」「おこもり美容」という3つの分野で、新たな美容ニーズが生じているとの結果が得られたという。

 マスクに関しては、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、マスク装着による肌荒れに関連する検索キーワードが急増していることが判明した。このことから、「マスクによる肌荒れを直接防止できるアイテムが求められているのではないか」との仮説が導き出された。

photo ヤフーが発表した「Withコロナ時代の美容トピックス ─マスク編─」より

 例年なら春先から需要が伸びるはずのファンデーション商品に関する検索が今年は減少している一方で、「マスク メイクが崩れない方法」といった新たな検索キーワードが伸びており、マスク装着下でも崩れにくい美容アイテムのニーズが増えていることも浮き彫りになった。

 また「セルフカット」「セルフカラー」「セルフネイル」といったように、外出自粛下でも自宅で行えるセルフ美容に関する検索キーワードも増加している。特にセルフカラーは、従来は10代〜20代の需要が多かったのに対し、コロナ禍以降は30代〜40代の検索量が増えている。これまで美容室でカラーや白髪染めを行っていたこの年代のユーザーが、外出自粛により自宅でセルフカラーに挑戦しようとしている様子がうかがえる。

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