マーケティング・シンカ論

マーケティング1.0は、もう通用しないのか? 注意すべきナンバリングの「罠」「新時代」のマーケティング教室(1/3 ページ)

» 2020年07月08日 05時00分 公開
[水越康介ITmedia]
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 マーケティングは、時代に合わせて進化・深化を遂げてきた。デジタルの時代に入り、「マーケティング3.0」や「マーケティング4.0」というナンバリングがされることもある。コロナショックの今、あらためて今日のマーケティングの考え方を確認することにしたい。大事なポイントは、時代の変遷はあるものの、これまで示されてきた4つの考え方はどれが良くてどれが悪い、というものではないということである。

マーケティング1.0:より良いものをより安く、できるだけ多く

 「マーケティング1.0」は、製品中心の時代とされる。これは大量生産・大量消費が始まる産業革命以降に発展した考え方である。より良い製品をより安く作り、できるだけ多くの人々に届けることが重要な課題とされた時代だ。自動車メーカーのフォードがT型フォードを大量生産し、どんどんと自動車の価格が安くなっていったのが代表的な事例として挙げられる。合わせて、フォードを追随したGM(ゼネラルモーターズ)は、ただ安く売るのではなく、巧みな割賦販売の仕組みとモデルチェンジを組み合わせることによって市場を開拓していった。

 今日でも、より良い製品をより安く作ることが重要な使命となることがある。例えば、現状において、新型コロナウイルスワクチンの開発と生産体制の確立は、世界中で必要とされている。コロナワクチンに限らず、医薬の世界では、新薬の開発において「より良い薬をより安く」というのが重要であろう。一方で、同じ医薬でも、ジェネリック医薬品が登場しているという場合には、すでに良い製品を安く提供できてしまっているのだから、新たなマーケティングの考え方が必要になるといえる。

産業革命時代の「マーケティング1.0」は現代でも一部通用する(出所:ゲッティイメージズ)

マーケティング2.0:顧客は何を求めているか?

 続く「マーケティング2.0」は、顧客中心の時代である。産業革命以降、消費社会が到来するにつれ、人々の最低限の必要はおおむね満たされるようになった。今となっては、自分自身が本当に何を必要としているかを知ることは、容易ではない。

 マーケティング2.0に関しては、P&Gのスローガンであった「The consumer is boss」が全てを物語っている。顧客がボスであり、企業は人々の必要を常に探り続けなければならない、ということだ。自動車が欲しい、家電製品が欲しいといった当たり前の必要を満たす時代は終わりを告げ、マーケティング2.0においては顧客が次に必要としているもの、本当に必要としているものが問われることとなった。

 顧客の必要が見えなくなればなるほど、皮肉なことに、マーケティングの役割は大きくなる。例えば、セグメントを確認し、ターゲティングを丁寧に設定する。競合製品との差別化を図り、自社製品のポジションをはっきりとさせる。そして、ただ良い製品を作るのではなく、価格政策、流通政策、販促政策を組み合わせ、仕組みとして顧客の必要に対応する。今日でも利用されるSTP分析やマーケティング・ミックスといったフレームワークが確立していったのは、移ろいやすく分かりにくくなった顧客のニーズに対応しようとした結果である。

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