マーケティング・シンカ論

マーケティング1.0は、もう通用しないのか? 注意すべきナンバリングの「罠」「新時代」のマーケティング教室(3/3 ページ)

» 2020年07月08日 05時00分 公開
[水越康介ITmedia]
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マーケティング4.0:顧客が参加する時代

 マーケティング3.0のソーシャルな意識が日本では遅れている一方で、今では新しい視点として「顧客の参加」が強調されるようになっている。このマーケティング4.0では、デジタルの発達をてこにして、顧客がさまざまなマーケティング活動に入り込む点が特徴だ。ソーシャルメディア上での口コミはいうに及ばず、Uber Eatsのように流通過程にも一般の人々が入り込み始めている。価格でも、メルカリやヤフオク!のように人々の間で流動的に決まるようになった。もちろん、製品開発ですら、クラウドファンディングをはじめとして顧客参加型の仕組みが用意されているようになっている。

 マーケティング4.0の時代に必要なことは、こうした顧客の力を評価することである。デジタル時代のマーケティングというと、ネットやSNSを使った先進的なマーケティングのように感じてしまうが、それだけであれば単にツールが増えた、というだけにすぎない。大事なことは、企業ではなく、顧客こそがデジタルを用いるということであり、デジタルを通じてマーケティング活動に関与し始めたということである。

 東京ディズニーリゾートの運営が再開されつつあるが、例えばTwitterやInstagramで「#ディズニー行きたい」と検索してみれば、どれほど多くの人が再開を待ち望んでいるのかが分かる。こうしたかつては見えなかったであろう一つ一つの声がデジタル上で可視化され、ディズニーリゾートを支援し、閉園中であってもそのブランドの価値を支えているといえる。

デジタルツールではなく、顧客の「参加」こそがマーケティング4.0の鍵を握る(出所:ゲッティイメージズ)

ナンバリングに惑わされてはいけない

 さて、ここまでマーケティング1.0から4.0を紹介した。ナンバリングされると、新しいものが良いもので、古いものは悪いように見えてしまうのが人の性でもある。ただ、注意してほしいのはそれ自体がマーケティング的であり、計画的陳腐化であるということだ。大きな時代の流れ自体は、1.0の時代から3.0、4.0へと向かっていることは間違いないが、製品中心のマーケティングが生きる市場もあり、逆に社会的な価値を目指すマーケティングが求められる市場もある、ということを肝に銘じてほしい。

 大事なのは、自分たちの市場をまずよく見てみること。そして、社会的な価値がどのように評価されているか、あるいはデジタルを通じて顧客がどのようにマーケティング活動に関与するようになっているのかを確認することだ。

著者プロフィール・水越康介(みずこしこうすけ)

東京都立大学 経済経営学部 教授

2000年に神戸大学経営学部卒業、2005年に同経営学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。2005年から首都大学東京(現東京都立大学)、2019年から経済経営学部教授。専門はマーケティング、デジタル・マーケティング。主な著書として、『ソーシャルメディア・マーケティング』(単著、日経文庫、2018年)、『マーケティングをつかむ 新版』(共著、有斐閣、2018年)、『「本質直観」のすすめ。』(単著、東洋経済新報社、2014年)、『新しい公共・非営利のマーケティング』(共編著、碩学舎、2013年)、『ネット・リテラシー』(共著、白桃書房、2013年)など。


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