マーケティング・シンカ論

マーケティング1.0は、もう通用しないのか? 注意すべきナンバリングの「罠」「新時代」のマーケティング教室(2/3 ページ)

» 2020年07月08日 05時00分 公開
[水越康介ITmedia]
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日本での事例は?

 日本では、2000年代に花王が発売した特定保健用食品の「ヘルシア」において、マーケティング2.0の典型的な形をみることができる。30代〜40代の中年男性をターゲットとしてニーズを探求し、漠然と意識されていたダイエット志向を具体的に実現する特保製品を提供したわけだ。広告はもとより、一般的な緑茶と差別化しながら高い価格設定によってその価値を訴求し、コンビニエンスストアで購入できるようにした。製品の認知が高まれば、男性だけではなく、女性や若年層にも支持を広げていくことができる。以降はカテキン成分を利用し、製品ラインアップも拡充されていったことが記憶に新しい。

花王のヘルシアはマーケティング2.0の代表的な例だ(出所:花王公式Webサイト)

マーケティング3.0:より良い社会の実現

 マーケティング2.0における顧客中心の発想は今でも重要だが、この考え方では、顧客は「目の前」にいる人々に特定され、それ以外の人々や環境は見えにくくなってしまう。しかしどんな企業も、特定の顧客のことだけを気にかけていれば良いわけではない。なぜなら企業も顧客も、より広い社会に埋め込まれているからである。そこで、続くマーケティング3.0では、「価値主導」の時代がやってくる。この時代は現在まさに進行中であり、個人が持つ欲望の充足だけではなく、より良い社会の実現を目指そうとするものだ。

 かつてアメリカン・エキスプレスは、自由の女神の修復活動への寄付を表明することで、カードの利用を増やすことができた。単なる営利目的でなく、そこに慈善的な要素を取り入れたのだ。こうしたコーズリレーティッド・マーケティング(大義にもとづくマーケティング)は、今日いよいよ重要度を増している。人々の意識や態度を変容させ、社会をより良くすることへと結び付けるという動きは、特に最近では人種差別問題を受け、海外で多くの企業が問題への対応を表明したことにも関係しているだろう。

海外では多くの企業が人種差別問題へのアクションを起こした(出所:ゲッティイメージズ)
ALT 文字列 栗木 契・水越 康介・吉田 満梨『マーケティング・リフレーミング』(有斐閣)

 翻って日本では、マーケティング3.0は今のところそれほど重視されていない。SDGs(持続可能な開発目標)などの枠組みに準拠した形での企業活動も目にするようになったが、まだまだ定着しているとはいえない状況だ。それは企業の問題だけではなく、顧客の意識の問題でもある。

 花王がかつて発売した洗濯用洗剤「アタックNeo」は、節水を可能にしたエコな洗剤であると、社会的な価値を宣伝されていた。ただ、開発に当たっての事前調査で明らかになったのは、人々はエコな部分を評価しながらも、実購買では値段や機能をより重視するということであった。そこでアタックNeoは、ただエコであることを主張するのではなく、節水・節電・さらには時短という具体的で複合的な価値の提案が試みられた。この事例を含み、日本企業の事例については、栗木契氏と吉田満梨氏との共著『マーケティング・リフレーミング』(有斐閣、2012年)で詳細に分析しているので、機会があれば手に取ってほしい。

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