なぜ「原価率300%」の料理を出すのか? コロナ後の飲食店に求められる「メニューの会計力」アフターコロナ 仕事はこう変わる(5/5 ページ)

» 2020年07月23日 07時30分 公開
[谷川俊太郎ITmedia]
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メニューで一番大切なことは利益を増やすこと

 メニューに会計的視点を取り入れる事例を紹介してきた。このような考え方が自在に使えるようになれば「メニューの会計力」が高まったといえるだろう。しかし、大事なことを忘れてはいけない。メニューは最終的には利益を出すためにあるということだ。

 ラーメン屋を例に考えてみると、材料費を300円、ラーメンの売値を800円とすれば、ラーメン1杯にラーメン店が「付け加えた価値」は500円になる。さらに1カ月あたりラーメンが売れた数を掛ければ、このラーメン店が1カ月で生み出した付加価値の合計額が計算できる。これが多いか少ないかで利益は決まる。

 ここで、ラーメン屋の運営に人件費や家賃等のいわゆる固定費が月に50万円かかるとしたら、1杯800円(材料費300円)のラーメンを何杯売らないといけないだろうか。1杯あたり500円の付加価値から上記の経費を支払う場合、50万円 ÷ 500円で月に1000杯売って、やっと赤字でも黒字でもないトントン、つまり損益分岐点となる。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

 ここで、先程の「会計力」を発揮して、ラーメン1杯に材料費100円の餃子(ぎょうざ)を無料で提供したらどうなるだろうか。ラーメンと餃子のセットで付加価値は400円に減る。すると損益分岐点に必要なラーメンは1250杯に変わる(50万円 ÷ 400円)。餃子を提供する前より25%も多く売る必要が出てくるが、餃子の無料サービスでそれ以上に客数が増えれば損して得取れ、となる。

 他にもセットメニューとしてラーメンと餃子にビールを加えた商品にするなど、客単価を上げる施策も考えられる。

 どれも当たり前の工夫に見えるかもしれないが、すべての飲食店がこういった工夫を行っているか? 行っていてもまだできることはないか? と考えれば、改善の余地はいくらでもあるだろう。

 ただ経費をかけるだけでなく、それ以上の付加価値を得る、つまり利益を出すことが目的だ。ただサービスをすることではなく、利益を出すこと。それがメニューの「会計力」なのである。新型コロナウィルスは飲食店経営に大きな打撃を与えた。しかし嘆いているばかりとはいかない。今の状況下でもできることはある。メニューの会計力を高めてこの苦境を乗り越えたい。

執筆者 谷川俊太郎 公認会計士・税理士・中小企業診断士

自己の事業承継の経験から先代とのギャップの悩みを持つ「カリスマ社長の後継者」の支援に力を入れる。会計の支援だけでなく、絵本を用いた経営戦略構築支援、MQ戦略ゲーム・TOC理論を用いた自立型組織作り支援を行っている。趣味は漫画で、特にキングダムが愛読書。戦略を学ぶ趣味と実益も兼ねている。1982年生まれ。

企画協力 シェアーズカフェ・オンライン

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