なぜ「原価率300%」の料理を出すのか? コロナ後の飲食店に求められる「メニューの会計力」アフターコロナ 仕事はこう変わる(1/5 ページ)

» 2020年07月23日 07時30分 公開
[谷川俊太郎ITmedia]

アフターコロナ 仕事はこう変わる:

 新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、業務の進め方を見直す企業が増えている。営業、在宅勤務、出張の是非、新たなITツール活用――先進的な取り組みや試行錯誤をしている企業の事例から、仕事のミライを考えていく。

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 新型コロナウィルスの感染拡大によって、休業要請や自粛が飲食店に大きな打撃を与えている。持ち帰りや宅配などさまざまな取り組みを行っている店舗も多数あるが、客数が激減したままでは利益が足りず、破綻に追い込まれるお店が今後も続出するだろう。

 借入金を増やした事業者も多く、銀行などの貸し出し残高は2020年5月の段階で前年同月比25兆7千億円も増加している。緊急避難的な融資で助かったお店も多いだろうが、いつかは返済しなければいけない。

 そこでコロナ後の飲食店に求められるのが、メニューを会計的に見直す力「メニューの会計力」だ。この力を高めてコロナ後を乗り切っていくことが必要になる。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

メニューは原価率から考えるべきか

 メニューは客にとっては食べたいものを選ぶためのものだが、飲食店経営者は常に別の見方をしている。それが「どのくらいの原価がかかるか」だ。飲食店ではメニューの改善は経営の改善に直結する。

 一般的に飲食店経営の原価率は、30〜40%程度といわれている。独立行政法人の中小企業基盤整備機構が運営しているJ-Net21というサイトでも、居酒屋の原価率を32%の前提にした損益イメージを公開している(ここで言う原価は材料費)。

 このような数字を基に、「原価の3倍の値段を付ける」という方針でメニュー単価を考えている事業者もいるだろう。原価率は確かに大切だ。しかし、その目安が常に適切かというとそうではない。最近でこそ人気が下降しているが、「いきなり!ステーキ」はその目安を完全に度外視していた。

 いきなり!ステーキの社長が書いた書籍(15年出版)を読むと、ステーキ単品の原価率は実に70%を超えていたという。その代わり立ち食いのスタイルで客の滞在時間を短くして、店の回転率を上げる戦略だった。

積極拡大による混乱もあったが、高価格なステーキに高原価を持ち込むというイノベーションを果たした、いきなり!ステーキ(同社Webページ)

 原価率を高めて座席の回転率で利益を出すビジネスモデルは「俺のフレンチ」で有名になったが、同じような考え方をステーキ業界に持ち込んだのである。

 書籍によると、いきなり!ステーキの銀座1号店は月商3000万円を記録したとある。20坪程度の店だったそうなので、立ち食いだとしても座席数は多くても50席程度だろう。休み無く30日稼働したとしても1日平均の売り上げは100万円。客単価3000円で考えると300名以上の客が来店した計算になる。

 回転率は「来店客数 ÷ 座席数」で計算されるが、50席で計算すると実に1日6回転。あくまでざっくりとした試算ではあるが、これは驚くべき数字だ。

 前述のJ-Net21では、居酒屋の損益イメージは座席数50席の店で1日平均50人の来店客数として計算されていた。すなわち回転率は1回転。いきなり!ステーキの銀座店はその6倍だ。

 そのおかげで高い原価率であっても来客数が多いため利益が出ていた。つまり原価率に加えて回転率もセットで考えていた。薄利多売といえば平凡な表現になるが、それを高価格のステーキに持ち込んだことはイノベーションだったといえる。飲食店の原価率に目安はあるが原価率を考えるばかりがメニューではないのだ。

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