1人1日1万5000円 大盤振る舞いの「雇用調整助成金」を活用しない企業のホンネ休業手当の一部を助成(4/4 ページ)

» 2020年07月28日 05時00分 公開
[中野 裕哲ITmedia]
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「見なし失業」の議論も影響

 厚生労働省によれば、日本の賃金平均が男性約39万円、女性約27万円となっています。休業手当の1日当たりの単価が1万5000円に引き上げられたことで、受給額自体は月給そのものの金額にかなり近づきました。22日休業すれば、最大で22×1万5000円=33万円の受給額となります。これによって、支払った休業手当の金額のほぼ100%を受給できるケースも増えましたが、それでも雇用調整助成金に二の足を踏むのは、資金繰りを懸念して休業手当の支払いができていないことが多少なりともあるでしょう。頭では休業手当のことを理解していても、休んでいる従業員に給料(休業手当)を支払うことに抵抗を感じる経営者もいるかもしれません。

 こうした中、次に説明する「みなし失業」の導入の議論が早い段階で出てきたのも、休業手当を支給して雇用調整助成金を受給するのではなく、「みなし失業の制度化を待とう」という気持ちにさせていた面もあるかもしれません。

事業主負担がない給付金制度の開始

 前述の通り、雇用調整助成金の活用が思ったより進まなかった原因は、必要書類がそろわない、手続きが面倒、そして資金的な面で休業手当を支払えないといったことでした。

 こんな状況の中、7月10日から導入されたのが「新型コロナウィルス感染症対応休業支援金」、いわゆるみなし失業の制度です。休業手当の支給を受けていない労働者が、失業していないけど、失業したものとみなして失業手当を受給できる制度です。東日本大震災のときに登場した制度ですが、新型コロナにも適用しようというわけです。これなら事業者が休業手当を支払う必要もなくなりますし、難しい書類を準備する負担もなくなります。確かに、新型コロナは事業者からしたら天災のようなものです。

 この制度自体は5月から導入を前提に議論が進められていました。事業主としては、いったん失業手当を支払って後から雇用調整助成金の支給申請をするよりも、従業員自身が申請して、直接従業員に国から支給してもらったほうが手間もかからず、資金繰りの面でも助かります。

 さらに、結果論的な面もありますが、休業手当の最低額が平均賃金の60%なのに対して、休業支援給付金の支給率は80%です。場合によっては事業者から休業手当をもらわずに休業支援給付金を受給したほうが労働者にとっても手取りが増える可能性があります。つまり、従業員にとっても休業支援給付金のほうがメリットがあるということで、事業者にとってもそちらを活用しようという理由付けにもなるのです。

 雇用調整助成金の活用が進まない理由は「手間」と「お金」だったかもしれません。しかし、休業支援給付金の申請開始により、休業手当の支払いから、休業支援給付金の申請にシフトする可能性は大いにあります。

著者プロフィール

中野 裕哲

税理士、特定社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー(CFP〈R〉)、一級ファイナンシャルプランニング技能士、起業コンサルタント〈R〉。V-Spiritsグループ代表(税理士法人・社会保険労務士法人・行政書士法人V-Spirits/V-Spirits経営戦略研究所株式会社)。経営者の支援をライフワークとし、経営全体を窓口ひとつでまるごと支援する。年間約300件の経営相談を無料で受け、多くの経営者を伴走支援している。日本最大級の起業・経営支援のポータルサイト経済産業省後援DREAM GATEにて9年連続相談件数日本一。最優秀賞他8部門で受賞。V-Spiritsグループには、日本政策金融公庫元支店長、元金融機関融資課長、元国の補助金審査員、助成金に精通した社会保険労務士など、各ジャンルで経験豊富な専門家も在籍しており、総合的な経営支援を行っている。最新刊『給付金・協力金・融資・助成金・補助金・納税猶予・支払猶予 「新型コロナ資金繰り対策」がすべてわかる本』を7月18日に発売。



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