「急行電車の混雑」「エスカレーター歩行」はなぜ生まれるか リニアの必要性と“移動”の意味杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)

» 2020年08月07日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

全ての謎が解けた「移動時間は無駄でしかない」

 なぜ数分早いだけの急行電車に乗りたいか。移動時間が無駄だから早く終わらせたいからだ。エスカレーター歩きも同様だ。なぜ歩きスマホをするか。移動時間が無駄だから、少しでも有益な作業・経験に使いたいからだ。これは「歩き読み」も同じ。

 移動時間は無駄という大前提で、他の疑問も解ける。例えば、カーラジオはなぜ搭載され、標準装備になったか。防災情報や交通情報を受信するためではなかった。Wikipediaによると、カーラジオの登場は1930年代である。運転中は運転に集中すべきだけど、運転者も他の乗員も退屈だ。よそ見はできないけど耳はさほど重要ではない。そこにエンターテインメントを求めた。カーラジオが普及したという前提で道路情報サービスは始まっている。

 「コンビニはしご酒」をご存じだろうか。会社の帰りにコンビニに立ち寄り、缶ビールなどを買う。しかし家に着く前に開けて飲みながら歩く。飲み切ってしまうと、またコンビニに寄って2本目を買う。この事象はバラエティ番組で見たから「流行している」は大げさかもしれない。しかし私も時々見かけるし、自分自身も帰宅時にコンビニに寄り、アイスやジュース、菓子を買い、歩きながら飲食することはある。ただ家路を歩く時間が有意義になった気がする。

 まだある。新幹線に乗ったらビールを飲まずにはいられない人、食事時間でもないのに駅弁を食べちゃう人、私もそうだ。スマホを触りたいから車内に電源がないと不満、という時世である。これらは全て、「移動は無駄な時間だから、合わせて有意義なことをしたい」だ。

 そういえば国土交通省の「電車の混雑率の目安」は、運輸省時代から「新聞を読める」「雑誌を読める」などと紹介されている。そろそろ新聞や雑誌からタブレット、スマホに置き換えた方が分かりやすいと思う。それはともかく、ずっと前から電車の移動は無駄な時間で、人々は退屈しのぎをしていた。

混雑率でおなじみ「混雑率の目安」イラスト(出典:国土交通省

 人々は「時間の無駄」「時間の損」をしたくない。これを理解すると、さまざまな事象がひもとかれる、と思う。そしてこれは“商機”になる。

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