「急行電車の混雑」「エスカレーター歩行」はなぜ生まれるか リニアの必要性と“移動”の意味杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)

» 2020年08月07日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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「リニアは要らない」という人の「価値」は低い

 今、東京〜大阪間は東海道新幹線で最短2時間22分だ。往復で約5時間。現地で1時間かかる用件があるとして、勤務時間のほとんどがつぶれる。企業にとってVIPが1日拘束されることは、あまり好ましくない。リニアだと東京〜大阪間は67分。往復で2時間14分。現地で1時間かかる用件があるとしても、午前中で用件は済む。リニアは乗客のためではなく、その乗客を重要だと認識する組織のためにある。

 これがもし、何百億、何千億、何兆の責任を負うVIPであれば、リニアどころではない。プライベートジェット機やヘリコプターの出番だ。しかし、日本ではそこまでの企業は多くない。東海道新幹線よりもちょっと割高で、飛行機並みに早い列車があればちょうどいい、という企業は多いだろう。

 逆に考えると、東京〜大阪間を2時間半で結ぶ東海道新幹線開業だって、当時はVIPの移動手段として価値があった。それを当時の国鉄は庶民が乗れる価格で提供し、JR東海が維持してきた。東海道新幹線の価値は、VIP向けサービスを庶民価格で提供したことだ。それをまた、リニア中央新幹線で実現しようとしている。

 「リニアは要らない」「私は乗らない」という人は、「私の時間には価値がありません」と公言しているようで、みっともない。ちなみに、東海道新幹線が建設・開業するときも、同様の論調はあったようだ。その人たちは東海道新幹線に乗らなかっただろうか。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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