「急行電車の混雑」「エスカレーター歩行」はなぜ生まれるか リニアの必要性と“移動”の意味杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)

» 2020年08月07日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 都心と郊外を結ぶ大手私鉄が急行を走らせる理由は、顧客に早く行く選択肢を提供するだけではない。大手私鉄のほとんどは沿線で不動産事業を展開しているから「都心まで○分」というメリットを出したい。実際には通勤時間帯に急行がなくても、日中の急行の所要時間をアピールする。誇大広告のようなカラクリだけど、ウソではない。通勤時間で家を選ぶときはご留意願いたい。

 しかし、都心を走る地下鉄で、所要時間の短さはメリットだろうか。都営地下鉄は不動産業に関わっていない。全て各駅停車にして、乗車機会を増やした方がいいかもしれない。どうやら直通先の私鉄の要請にお付き合いしているだけと言えそうだ。大手私鉄間の都心への所要時間差の競争は、沿線の不動産部門の競争に直結している。地下鉄にとって、乗り入れ先の私鉄の人気は、そのまま集客に影響する。

 それにしても、なぜ人々は数分の所要時間短縮を望み、混雑する急行を選ぶのか。

「歩きスマホ」「エスカレーター歩行」はなぜ?

 話は変わって、鉄道関連では「歩きスマホ」「エスカレーター歩行」がよく話題になる。鉄道事業者からどちらも「危険だから止めましょう」と呼びかけられている。歩きスマホは当人にとって危険なだけではなく、歩行速度が遅くなり通行の流れを乱す。特に下り階段で歩きスマホの人に追い付くと、勢いを抑える意識が必要だ。階段事故がいつ起きてもおかしくない。

 エスカレーターの「歩行」や「片側空け」は、私は合理的だと考えているけれど、本稿はその是非を問う趣旨ではない。本題は、「なぜ歩きスマホをするか」「なぜエスカレーターを歩行するか」である。

なぜエスカレーター歩行をするのか(写真提供:ゲッティイメージズ)

 昔から本を歩き読みする人がいた。私も高校時代は電車の中で文庫本を読み、続きが気になるからプラットホームや改札口でも「歩き読み」していた。あまりにも夢中になりすぎて、読みながら無意識に定期券を駅員に見せて改札口を通過した。あるとき、通学経路の定期で、全く別の路線に乗っていたことに気づいた。慌てて改札に戻り、わびて許してもらい精算したけれど、振り返ればその前に数回、無意識に改札を通過していた。それは黙っていた。たぶん駅員は私の制服姿を何度も見かけていたはずだ。

 今のように自動改札がなかった時代。有人改札口では、駅員は定期券をいちいちチェックせず、客の表情や挙動を見ていたという。不正乗車はそれで見抜けた。駅員と乗客の信頼関係ができていた。もちろん私のようなウッカリさん、あるいは確信犯もいただろう。そんな事情もあって自動改札が普及したともいえる。

 それはともかく、なぜ私は「読み歩き」をしていたか。本が好きだったというだけではない。通学時間が「退屈」だったからだ。

 全ての謎を解く鍵はこの「退屈」だ。人々は「移動時間」を「退屈で無意味」だと思っている。

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