東京女子医大で起きた看護師400人の退職危機は「コロナ不況」の先取りである専門家のイロメガネ(5/5 ページ)

» 2020年08月17日 07時10分 公開
[小山美幸ITmedia]
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ワタミとすき家の教訓

 赤字転落でボーナスカットやリストラが行われる……。現場の職員からすればたまったものではないと思うが、経営者目線で見れば仕方がない、無い袖は振れない、ということになるのだろう。しかし職場環境が悪化して士気の低下が起きれば、その影響は長期間にわたって悪影響を及ぼす。

 過去にブラック企業の代名詞のように頻繁に名前を挙げられていた企業に、外食大手のワタミと牛丼チェーンのすき家を運営するゼンショーホールディングスがある。

 14年に2社に発生したトラブルが、人手不足による時短営業と店舗の大量閉鎖だ。

 2社では雇用に関するトラブルが度々発生した。そしてブラック企業としてあまりに名前が知れ渡ったことにより、年度の切り替わりでパート・アルバイトが退職した際に、代わりとなる人員を確保できず、結果として時短営業と店舗閉鎖に追い込まれた。

 雇用する側が強い買い手市場であるうちは採用で困ることはなくとも、人手不足になれば評判の悪い企業は一斉に退職・転職が相次ぎ、中途や新卒、そしてアルバイト・パートの採用までできなくなってしまう。考えてみれば当たり前の話だが、14年当時は長期間に渡る就職難、人手余りの状況から景気回復による人手不足へと切り変わる転換点でもあった。

 外食産業は仕事がきつい一方で給与水準は低く、人手不足は業界全体の問題ではあるが、結果的に2社は真っ先に影響を受けた形だ。

 そしてこれは現在、コロナ禍で苦境にあえぐすべての企業に当てはまる。コロナ禍の苦しい状況で失業者は増え、それ以上に休職者も発生している。今後休職者も解雇・退職となればさらに失業者があふれて人手不足の売り手市場から一転して買い手市場となる。

 多くの企業が生き残りをかけて必死になっている環境で、従業員ひとりひとりの待遇を考える余裕なんてない、会社がつぶれないだけマシ、クビにしないだけありがたく思え、というのが経営者の心境かもしれない。しかしそのような企業は景気が回復すれば真っ先に従業員に見捨てられ、そして採用でも困ることは過去の事例が示す通りだ。

 事業者向けの支援として行われている持続化給付金や家賃支援給付金、リストラを回避するために支給される休業支援金など、税金による支援は一定程度行われているが、予算の都合でいずれも限界がある。すでに書いた通り失業率は景気の遅延指数であり、ボーナスカットもリストラも本格化はこれからである。

 コロナ対応で頑張った看護師がボーナスゼロで400人退職なんて酷いなあ……と感じていた人も多いと思う。コロナ禍で多数の病院が陥った苦境は、多くの企業の将来を先取りしている。そして人手余りから人手不足に切り替わる際には、また同じことが起きる事も予測される。

 企業の生き残り策は、将来を見据える必要がある事は強く指摘しておきたい。

プロフィール:小山美幸 国家資格キャリアコンサルタント

津田塾大学卒業後、大手人材会社で人材紹介事業に従事。採用法人への営業と、転職者個人へのキャリアアドバイザー業務を経験。現在はグローバル展開するHRTeck企業で営業職として勤務。人材業界の現場で培った知見を体系化すべく、国家資格キャリアコンサルタントを取得。子育て中の一児の母。

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