2020年3月、ノバルティス ファーマ社(以下、ノバルティス)が開発したゾルゲンスマという薬が承認された。
ゾルゲンスマは脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう)の治療薬で、対象は2歳未満の乳幼児だ。脊髄性筋萎縮症は遺伝性の病気で、徐々に筋力が低下していく。乳児型は症状が最も重く、ものを飲み込むことや、首を支えることができなくなり、人工呼吸機を使わない場合、幼くして死亡する。
薬の価格は国内最高の1億6000万円。たいへん高い薬だと、メディアでも話題になったが、5月には保険の適用が決まっている。他の高額薬と比べても、ゾルゲンスマの次に高い薬は白血病の薬キムリアで3400万円、ゾルゲンスマの類似薬であるスピンラザが約950万円と続く。ゾルゲンスマが突出して高いことが分かる。
この価格が妥当かどうかについては疑問も出ている。加えて、ゾルゲンスマの審査報告書では製薬会社に対して異例ともいえる「苦言」が書かれている(審査報告書:医薬品の承認申請に対し、審査の内容と見解をまとめた資料)。
ゾルゲンスマはなぜここまで高いのか? 苦言が呈された背景にはどんな事情があるのか? 医薬品開発を支援する企業で長年働いてきた筆者の経験から考えてみたい。
そもそも薬の価格はどのように決めるのか。この決め方には2種類ある。同様の効果がある薬を基準にする「類似薬比較方式」と、原価から計算する「原価計算方式」だ。これらから出された価格から、薬ごとの事情を考慮し各種金額が上乗せされる。最後に外国での価格と比べ、もし差が大きいようであれば調整する。
ゾルゲンスマでは、類似薬のスピンラザを基準に価格が決められた。何度も投与するスピンラザと同じくらいの効果が、ゾルゲンスマではたった1回の投与で期待できる。ゾルゲンスマを使うことで、従来必要だったスピンラザの投与が要らなくなる期間が2年弱、薬の数にして11本分、という根拠で、スピンラザの価格950万円✕11=1億円と算出されたのだ。
このように、ゾルゲンスマが高くなった理由の一つはスピンラザが元々高かったからともいえる。
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