スケジュール遅れの背景の1つは、製薬会社の多忙さがあると思われる。筆者は製薬会社と共に10年以上仕事をしてきたが、どこの製薬会社でも担当者は非常に多忙であり、想像以上に少ない人数で業務に対応していた。
製薬会社は複数の薬を開発・販売しており、開発中の薬の承認申請、市販後の薬に関する報告など、複数の薬でスケジュールが重なることも十分にあり得る。早く薬を世に出したい気持ちがあったとしても、担当者の人数が限られた中で定められたスケジュールどおりに動くことは難しい。
気になるのは今回の審査報告書内に、動物実験の結果の一部でノバルティス子会社によるデータ操作があったという記載があることだ。ゾルゲンスマが効果的な薬であるとの結論を覆すような内容ではなかったとされているが、薬のデータ操作と聞くと筆者は14年の「ディオバン論文不正事件」を思い出してしまう。
高血圧の薬ディオバンの研究論文に不正があったとされ、薬事法の誇大広告違反容疑でノバルティス社と元社員が起訴された事件だ。裁判では、元社員の関与とデータ改ざん行為を認めたものの、一審、二審とも無罪となっている。信頼回復に向けての取り組みのなか、改めて社内体制の強化も求められる。
ゾルゲンスマは保険適用となったことと、高額療養費制度や乳幼児の医療費助成により、実際の患者の自己負担はほとんど発生しない。しかし、ゾルゲンスマの投与は2歳未満までとされている。承認までのスケジュールが遅れている間に病状が悪化したり2歳の誕生日を迎えた患者もいるはずで、保護者の心情を察するに余りある。
ゾルゲンスマを一刻も早くと切望する患者家族がいる。医薬品の開発業界に携わる者として、「この薬を待つ患者がいる」ということを忘れないでいたい。期限を守ること、正直であることは、患者の人生の明暗を分けることすらあるのだ。
新型コロナ薬のレムデシビルは、なぜ米中で治験の結果が正反対だったのか?
期待のアビガンが簡単に処方できない理由
コロナウィルスで打撃を被るのは「製薬会社」となり得る意外なワケ
あなたの会社がZoomではなくTeamsを使っている理由
元グラビアアイドルが語る、SNSの有名税と誹謗中傷 テラスハウス問題の本質とはCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング