1億6000万円の新薬「ゾルゲンスマ」に異例の苦言がついた理由専門家のイロメガネ(3/4 ページ)

» 2020年06月18日 07時00分 公開
[松本華哉ITmedia]

金額が10%上乗せされる「先駆け新薬」

 しかし、ゾルゲンスマの値段には疑義も出ている。ゾルゲンスマは、承認審査を優先させる「先駆け新薬」に定められており、さらに10%上乗せした値段になっているのだ。

 先駆け新薬の制度は、深刻な病気の患者が少しでも早く最先端の治療を受けられるように承認を優先するもので、指定されれば10%値段が上乗せされる。それだけに指定には厳しい条件がある。その薬が新しいメカニズムでの効き方で画期的であること、重い病気の薬であること、極めて良く効く薬と判断できること、世界に先駆けて日本でいち早く承認申請する意思、これら全てが必要だ。

 つまり、社会的意義がとても高いので、なるべく早く開発すること。そのために金額を10%上乗せします、ということだ。

 20年4月現在、先駆け新薬の対象になった薬は全部で20種類ある。そのうち8種類が承認され、うち申請時期が公表されている7種類は、全て6カ月程度で承認されている。しかし、ゾルゲンスマは承認まで1年4カ月もかかった。

 「先駆け新薬」でありながら承認スケジュールが遅れた。それにもかかわらず、10%の上乗せはされる。一度指定されれば、その後のプロセスが遅れたとしても10%上乗せ価格になることは妥当なのか。「たかが10%」といっても、元の値段が1億円と高いため1000万円もの上乗せになる。

 この件では中央社会保険医療協議会中医協総会でも疑問の声が挙がったという。20年5月13日には厚生労働省もゾルゲンスマの価格を見直すとした。また、薬の値段を決める際の審議は非公開であり、議事録も作成されないとのことで、全国保険医団体連合会は改善要望を出している。承認までに時間がかかったことについて、ゾルゲンスマの審査報告書では次のよう記載されている。

 「機構は、審査期間短縮のために迅速な対応をしたにも関わらず、申請者の対応が原因で、スケジュールが大幅に遅延した」

「事態は極めて異例」

「申請者の認識が極めて不十分」

(それぞれ、ゾルゲンスマ「審査報告書」より抜粋)

 ここでの「機構」とは医薬品の承認を行う医薬品医療機器総合機構のこと、「申請者」とは製薬会社であるノバルティスのことだ。筆者は仕事で多くの審査報告書を読んできた。しかし、審査報告書においてこのような「苦言」が書かれるのは珍しいことであり、筆者も驚いた。

スイスのバーゼルにあるノバルティスの本社(写真 ロイター)

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