東京女子医大で起きた看護師400人の退職危機は「コロナ不況」の先取りである専門家のイロメガネ(2/5 ページ)

» 2020年08月17日 07時10分 公開
[小山美幸ITmedia]

大量退職の本質は?

 東京女子医大で看護師400人が一斉退職希望という異例の事態が起こった。6月に病院側が突きつけたボーナス全額カットが、その要因だとされている。しかし大量退職危機は、決して「ボーナスゼロ」だけが原因ではない。

 東京女子医大は、もともと心臓外科手術の分野で確固たる地位を築いていた。しかし、2001年と14年の2回にわたる医療過誤で信用に傷が付いてしまい、特定機能病院の承認が剥奪(はくだつ)され、人材流出と外来患者の減少により赤字に転落している。結果的に過去にも多くのリストラと診療所の閉鎖を行っており、これまでも賞与の減額はあった。経営悪化はコロナ以前から続く問題ということになる。

 経営陣の現場に対する態度も看護師の退職に拍車をかけている。退職騒動が起きた時、病院側の理事代理は、組合との話し合いで下記のように発言したという。

 「現在はベッド稼働率が落ちているので、仮に400名が辞めても何とか回るのでは。最終的にベッド数に見合った看護師を補充すればいいこと。(中略)今後の患者数の推移を見ながら、足りなければ補充すれば良いことだ」(東京女子医科大学労働組合『組合だより 6/29号』より)

 経営陣の開き直った発言に失望している現職看護師の声は多い。そこにとどめの「ボーナスゼロ」である。

 日本医労連傘下の労働組合を通じた7月の調査では、医療機関354のうち約35%の122機関で、昨年度よりも夏の賞与を引き下げると回答があった。しかし、賞与の「不支給」は筆者が調べた限りでは執筆時点で東京都内で2件しかない。

 東京女子医大はそれだけ経営が悪化していたのか、それとも自主的に退職してくれたらリストラの手間が省けると考えたのか不明だが、今回のトラブルで経営側と従業員との間にできた溝は大きい。以前からの赤字体質も変わらず残る。しばらくコロナによる影響も続く可能性もあり今後も茨の道を歩むこととなる。

 東京女子医大の労働組合も、会見で「ボーナスゼロだけが原因ではない、教職員を大事にしない姿勢が問題である」と明確に指摘している。

病院経営側と従業員の間には溝ができた(イメージ 写真提供:ゲッティイメージズ)

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