東京女子医大で看護師400人が一斉退職希望という異例の事態が起こった。6月に病院側が突きつけたボーナス全額カットが、その要因だとされている。しかし大量退職危機は、決して「ボーナスゼロ」だけが原因ではない。
東京女子医大は、もともと心臓外科手術の分野で確固たる地位を築いていた。しかし、2001年と14年の2回にわたる医療過誤で信用に傷が付いてしまい、特定機能病院の承認が剥奪(はくだつ)され、人材流出と外来患者の減少により赤字に転落している。結果的に過去にも多くのリストラと診療所の閉鎖を行っており、これまでも賞与の減額はあった。経営悪化はコロナ以前から続く問題ということになる。
経営陣の現場に対する態度も看護師の退職に拍車をかけている。退職騒動が起きた時、病院側の理事代理は、組合との話し合いで下記のように発言したという。
「現在はベッド稼働率が落ちているので、仮に400名が辞めても何とか回るのでは。最終的にベッド数に見合った看護師を補充すればいいこと。(中略)今後の患者数の推移を見ながら、足りなければ補充すれば良いことだ」(東京女子医科大学労働組合『組合だより 6/29号』より)
経営陣の開き直った発言に失望している現職看護師の声は多い。そこにとどめの「ボーナスゼロ」である。
日本医労連傘下の労働組合を通じた7月の調査では、医療機関354のうち約35%の122機関で、昨年度よりも夏の賞与を引き下げると回答があった。しかし、賞与の「不支給」は筆者が調べた限りでは執筆時点で東京都内で2件しかない。
東京女子医大はそれだけ経営が悪化していたのか、それとも自主的に退職してくれたらリストラの手間が省けると考えたのか不明だが、今回のトラブルで経営側と従業員との間にできた溝は大きい。以前からの赤字体質も変わらず残る。しばらくコロナによる影響も続く可能性もあり今後も茨の道を歩むこととなる。
東京女子医大の労働組合も、会見で「ボーナスゼロだけが原因ではない、教職員を大事にしない姿勢が問題である」と明確に指摘している。
病院経営側と従業員の間には溝ができた(イメージ 写真提供:ゲッティイメージズ)
- 1億6000万円の新薬「ゾルゲンスマ」に異例の苦言がついた理由
ノバルティス・ファーマが開発したゾルゲンスマという薬が承認された。薬の価格は国内最高の1億6000万円。たいへん高い薬だと、メディアでも話題になったが、5月には保険の適用が決まっている。しかし、この価格が妥当かどうかについては疑問も出ている。加えて、ゾルゲンスマの審査報告書では製薬会社に対して異例ともいえる「苦言」が書かれている。
- 新型コロナ薬のレムデシビルは、なぜ米中で治験の結果が正反対だったのか?
新型コロナウイルス治療薬の登場が期待される中、5月7日に抗ウイルス薬のレムデシビルが日本で「特例承認」された。しかし米中でレムデシビルの治験が行われたが、結果が効く、効かないで正反対だったと報じられている。レムデシビルは新型コロナに効くのか、なぜ米中の治験で異なる結果が出たのか。
- 期待のアビガンが簡単に処方できない理由
新型コロナウイルスの感染者数が急増している現在、「アビガン」という薬が特効薬として期待されている。しかし、アビガンは他のインフルエンザ薬が無効、または効果が不十分な新型もしくは再興型のインフルエンザが発生した場合で、なおかつ国が承認した場合のみ使える薬だ。アビガンの「催奇形性(さいきけいせい)」というリスクががその理由の一つだ。
- なぜ「原価率300%」の料理を出すのか? コロナ後の飲食店に求められる「メニューの会計力」
コロナ後の飲食店に求められるのが、メニューを会計的に見直す力「メニューの会計力」だ。この力を高めてコロナ後を乗り切っていくことが必要になる。メニューに会計的視点を取り入れて、「広告宣伝費的な視点」「接待交際費的な視点」「販売促進費的な視点」によって、話題を作り、再来店を促し、回転率を上げて来客を促し、顧客を開拓するのだ。
- 元グラビアアイドルが語る、SNSの有名税と誹謗中傷 テラスハウス問題の本質とは
13年間グラビアアイドルとして活動してきた間、活躍するために、そして生き残るために、ネットをいかに活用するかは最も重要だった。「嫌ならSNSを辞めればいい」というものがある。真正面から答えるなら「簡単に言わないで欲しい」の一言だ。芸能活動でSNSは命といっても過言ではないからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.