このところの金価格の上昇は、「2019年年央に始まった米国実質金利のマイナス領域入りがしばらく続きそうだ」、と投資家が認識したことによる、とみている。実質金利とは、金利から物価上昇率を引いたもので、このレポートでは「実質金利=米国10年国債利回り−物価(CPI、食品・エネルギー除く)上昇率」としている。
金価格と米国実質金利の推移
一般に米国の実質金利が低下すると、金(米ドル建て)価格が上昇しやすいとされる。厳密に証明する事は難しいが、将来の消費のために米ドルを貯蓄する場合、インフレに応じて金利が高ければ、将来の購買力を預貯金で維持できるが、インフレが予想される割に金利が十分高くない(実質金利が低い)と考える場合、金利よりもモノのほうが(金価格がインフレと連動すると保証はないが)魅力を増したように見える。
しかも、実質金利がマイナス(グラフ赤枠)になると、(今のインフレ率が将来も続くのであれば)金利が低すぎて将来の購買力が減る恐れがあるので、価値を保全したいと思うなら、何か短期金利以外のものに投資をしたくなる。感染者数が増え続け、FRB(米連邦準備制度理事会)は緩和継続のコメントを続ける中、この状態は長く続きそうだとの見方も金価格を押し上げる。
購買力を金で維持できる、という証拠に乏しいことに注意が必要だ。米国の物価と金価格の連動性は、歴史的に常に高いわけではない。つまり、そうした連動性を前提とした投資はリスク・テイクだ。価値を保全するだけなら、実質金利が低くても(コストが掛かるが)債券投資の方がその目的に合致する。
- 金価格はバブルに突入? 価格の”ねじれ”史上最大に
金相場が史上初めて1グラム=7000円の節目を突破した。ここ10年の間、3500円から5000円のレンジでさまよっていた金相場は、コロナ禍による経済不安の高まりを背景に「有望な資金の逃避先」として人気が急上昇。金相場はわずか半年程度で一時7500円近辺にまで急騰した。
- 金価格が最高値 小売価格は7000円超え
金価格が急騰している。国内小売価格は7000円超え。先物も軒並み過去最高値を更新した。
- 長期的に円高の可能性はあるか
米ドル(対円)は短期的に大きな変化はないと想定している。弊社の2021年6月予想は1米ドル=108.50円(以下、1米ドルを省略)である。15年11月以降のトランプラリーでいったん100円程度から118円程度まで米ドル高となり、その後はおおむね105〜115円の範囲内で推移している。もちろん為替を予想することは難しいが、現時点では、今後もこの範囲を大きく逸脱すると考える理由が見当たらない。
- コロナ禍で産業構造は変化しているのか
産業構造変化の観点からみると、経済と主要株価指数は以前から乖離しており、今回のコロナ・ショックで偶然に加速した。数年かかると思われた変化が、コロナ・ショックをきっかけに一気に進んだ面はあるが、ショック自体が業種別比率の変化の方向を変えたのではない。
- 米大統領選と経済と株価
共和党のトランプ氏(現大統領)と民主党のバイデン氏のどちらが大統領になっても、米国経済の成長率予想の差はほとんどないとみている。そもそもコロナ・ショックからの脱却において、政府や中央銀行のとるべき(とることが出来る)政策に大きな違いはない。また長期的に政策の差はあるが、経済成長全体に与える影響は小さい。
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