「脱・総菜」がカギ コロナ禍で好調の食品スーパー、乗り越えるべき50年来の“タブー”とは?小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)

» 2020年09月01日 08時15分 公開
[中井彰人ITmedia]

食品スーパー業界、50年来の「悩み」とは?

 これまで、総菜市場のけん引役となったのは、コンビニであり、次いでスーパーであった。市場飽和時代に入り、出店スピードが急速に低下したコンビニを上回って、食品スーパーが総菜を伸ばしつつあったのである。このように総菜への取り組みに注力してきた食品スーパー業界ではあるが、コロナ禍の影響でその風向きが大きく変わったことに戸惑ってもいるようだ。増収というありがたい環境とはいいながら、総菜から再び素材、という商品戦略の見直しを迫られているのである。

総菜からの脱却が求められているスーパー業界

 単純に考えれば、総菜のように手がかかった商品よりも、生鮮品といった素材そのものが売れていく方が、手がかからなくていいように思われるだろう。ところが、生鮮というナマモノも、温度管理の無い非食品などとは違って、かなり手間のかかる商品なのだ。そのため、小売業の中でも、スーパー以外は生鮮品を売っているチェーン店があまりないのである。鮮度が悪いと売れないし、売れ残ってしまえば即ロスになってしまう、という厄介な商品管理は独特のノウハウが必要なのである。

 このことは、スーパーの生鮮売場を思い出してもらうと分かる。多くの場合、売場のすぐ裏手は野菜、魚、肉のカットやパック詰めを行う加工スペースになっている。これは、日本のスーパーの創成期、「関西スーパー」というチェーンが本格的に始めたインストア加工という生鮮品管理の手法で、生鮮品は基本、売場裏手で最終加工とパックをして、その日に売る、という鮮度重視のやり方だった。

 これは、その当時、専業主婦が多く、毎日冷蔵庫代わりにしてスーパーに買物に行くという生活スタイルの時代に圧倒的に支持された。その上、関西スーパーという会社は変わっていて、こうしたインストア加工のノウハウを公開し、多くの他社にも惜しみなく伝授した。そして、このインストア加工方式は日本の食品スーパーの生鮮管理に関するスタンダードとなって、全国に広まっていき、今でも変わらずに主流をなしているやり方だ。話が長くなるのでこのくらいにしておくが、この手法が日本の生鮮専門店式の職人に依存した管理から脱皮し、スーパーというチェーンストアの生鮮管理をある程度マニュアル化することに成功した、偉大なターニングポイントではあったといわれている。

 時は流れて、50年以上もたったが、このインストア加工方式は今でも食品スーパー業界の生鮮管理の主流である。ただ、既に業界標準であるため、それだけでは差別化要因にもならず、その弱点でもある人件費がかかるのでもうけが薄いという課題をどう解決するか、ということは業界では共通の悩みとなってきた。当然、この間に加工、パック詰め工程をセンター集中処理に移行することによって、鮮度とコストの両立を図ろうとするチャレンジが行われた時期もあったが、結果としてはあまりうまくいかなかった。

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