中国がスクラッチをブロック インターネット分断が子どもの領域にも星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(3/5 ページ)

» 2020年09月16日 07時00分 公開
[星暁雄ITmedia]

中国国内のプログラミング教育は代替手段で続く

 もともとは中国の教育現場はスクラッチに積極的だった。中国ではスクラッチは検定教科書の題材となっている。スクラッチの開発元であるMITの研究グループリーダー、ミッチェル・レズニック(Mitchel Resnick)氏は、18年に訪中して中国の教育専門家と対談を行っている。19年には中国で開催されたスクラッチのイベント「スクラッチ Day」に招かれている(中国メディアの記事)。このイベントは中国の大手企業Tencent Gamesが後援した。

 またレズニック氏の著書「Lifelong Kindergarten」(日本版は日経BP社刊『ライフロング・キンダーガーテン 創造的思考力を育む4つの原則』)は中国語に訳されて中国国内で出版されている(関連情報)。中国の教育関係者や産業界はスクラッチに期待を寄せていたのだ。

中国でも多くのスクラッチ関連書籍が発売されている(中国のECサイトDangdangより)

 前述したように、スクラッチサイトのブロックによりプログラミング教育が中断することにはならないだろう。代替手段があるからだ。まず、スクラッチには「オフラインエディター」あるいは「スクラッチ Desktop」と呼ばれるツールがある。Webサイトにアクセスできなくても、スクラッチを使ったプログラミングは可能になっている。

 日本でスクラッチの普及やプログラミング教育に長年取り組んでいる阿部和広氏(青山学院大学大学院社会情報学研究科特任教授、放送大学客員教授)は、「中国は代替ツールを使ってプログラミング教育を続けるだろう」と見ている。中国国内では、スクラッチにインスパイアされた教育ツールが何種類も登場している。特に勢いがあるのがスクラッチと位置づけが近いCodemao(編程猫)だ。ほかにも、教材用ロボットと連携できるプログラミングツールmBlock、MIND+など多くの教育向けプログラミングツールがある。ちなみに、阿部氏は『小学生からはじめるわくわくプログラミング2』など多くのスクラッチの書籍を執筆しており、その中国語版も出版されている。

 「米国製のインターネットサービス(グーグル、フェイスブック、ツイッターなど)は中国では軒並みブロックされているが、中国国内には中国製の検索エンジンやSNSやECサイトがある。それと同じように、中国製品を使って中国国内向けのプログラミング教育も続くだろう」と阿部氏は見ている。

 中国にスクラッチに熱心な教育関係者はいたが、スクラッチサイト上で情報発信や交流を行っていた中国の子どもは比較的少なかったという。

 スクラッチサイトに中国から登録しているユーザーの人数は約307万人、スクラッチの登録ユーザー数の約5.65%である(スクラッチサイトの統計情報から。記事執筆時点)。一方、日本から登録しているユーザーは65万2000人、約1.2%と中国に比べてかなり少ない。ところがサイト上の活動の活発さでは日本の子どもの方が上回っているという。その理由として阿部氏は「中国ではスクラッチのサイトに登録してもコミュニティに参加しない(SNSの機能を使わない)子どもが多いためだろう」と見ている。中国国内向けに運営されている子ども向けのプログラミングコミュニティもあり、今後はそちらに人が集まる形になりそうだ。

 とはいえ、比較的少数ではあっても中国国内から世界中のスクラッチコミュニティに向けて情報発信し、自作プログラムを公開し、ディスカッションフォーラムで交流していた子ども達は存在した。その子どもたちの表現の場は失われてしまった。

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