中国政府がスクラッチのサイトをブロックした理由が、中国政府系メディア「中国網」の記事に記されている(中国網の記事)。大きくは2点だ。
- 香港、マカオ、台湾をスクラッチサイト上で「国」として扱っていた。中国政府は、台湾などを「国」扱いすることに反発している。
- 中国政府に対して「侮辱的」な発言が放置されていた。内容は「香港独立」や「台湾独立」に関する書き込みや、米中経済摩擦に関連して中国を中傷するコメントなどである。
中国網の記事は、それに加えて中国の国境内で情報を発信するサービスには中国の法制度、具体的にはインターネット情報サービス管理規則(中国語の条文)の順守が求められると強調している。
この「管理規則」によれば、中国国内で閲覧できるインターネットサービスの運営には政府の許可が必要となる。また「国民の団結を損なう」言説や「国の名誉及び利益を害する」言説を広めることは禁止されている。
スクラッチサイトの場合は、スクラッチサイト上に中国政府が問題とする表現があることがなんらかの事情で明らかとなり、また中国政府の許可を得ているサイトではないことから禁止措置に至ったのだろう。
スクラッチを開発するMITの研究チームからの公式表明は記事執筆時点では発表されていない。スクラッチのWebサイトのディスカッションフォーラムでは、「中国のブロックについてどう考えるのか?」というユーザーの問いかけに対して、運営チームは「問題を認識しているが、新しい情報はない」と答えている。対応をめぐり検討中の段階とみられる。
中国国内の声も見てみよう。SNSへの投稿によれば、中国の教育現場ではスクラッチはパイソンと並んで教育用プログラミング言語として広く使われているという。「問題はスクラッチのソフトウェアではなく、スクラッチコミュニティのコンテンツだ」と指摘。スクラッチのソフトウェアを使うことには問題がないと指摘している。
別の投稿では、中国政府の教育系機関からスクラッチを扱った教科書の内容を見直す指示が出たと記されている。「スクラッチのコミュニティに参加しよう」といった記述を問題視しているようだ。またスクラッチのブロックが続けば、中国製のスクラッチ代替製品への支持が高まるだろうと述べている。
ここで見る中国のSNS上の論調は、「コミュニティサイトのブロックはやむを得ないが、スクラッチによる教育は代替製品を使ってでも続けるべきだ」というものだ。インターネットの分断が強化されることを見越して、中国国内製品を強化するべきだ、との論調もある。
インターネットの分断は解決困難なので、分断を前提に「できること」を考える姿勢といえる。
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