光のDeFi、闇のDeFi 1週間で14億円を手にした”寿司”スワップの芸術的手法(2/4 ページ)

» 2020年09月19日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

1週間で、コピーしてトークンを配布し、売り抜ける 芸術的な手法

 これが実際に起きたのが、スシスワップを巡る騒動だ。匿名の設立者シェフ・ノミは、8月下旬、DeFiの代表格といえる分散型取引所(DEX)のユニスワップをコピーして、スシ(寿司)スワップをスタートさせた。

スシスワップ

 ユニスワップの特徴は、事前に暗号資産のペアを預かる(流動性をプール)ことで、即時の暗号資産取り引きを実現していることにある。例えば、イーサリアムとUSDC(イーサリアム上のステーブルコイン)のペアを事前に預かっておくことで、これを利用してイーサリアムとUSDCの即時交換を実現している。暗号資産のペアを預ける側は交換時に手数料を受け取ることができる。この仕組みが成り立つには、どれだけ大量の暗号資産がプールされるかが最重要だ。

 新興のスシスワップは、橋本氏が「芸術的な手法」と評する2つの仕組みでこれを解決した。1つは独自のトークンであるスシ(Sushi)の発行だ。そして2つ目に、ユニスワップに指定した通貨ペアをプールすることで、スシトークンがもらえるようにしたことだ。この通貨ペアは、スシスワップがローンチした時点で、ユニスワップからスシスワップに移行する前提になっていた。

 スシトークンを入手することは「寿司を握る」などと呼ばれ、大ブームを巻き起こした。持っている暗号資産をユニスワップに預けるだけで、新たなトークンが得られる。さらに先行者利益の仕組みもある。スシトークンとイーサリアムのペアを預けると、さらに多くのスシトークンが得られる……。

 8月29日にスシトークンの配布が開始され、当初はお遊び的な見られ方をしていたものの、ブームは過熱。9月1日には世界的な暗号資産取引所のFTXとバイナンスにスシトークンが上場し、価格は一時12ドルまで急騰した。9月6日には、スシスワップが指定した資産ペアの総額は12億7000万ドルに達し、ユニスワップで取引されている資産の7割にあたるまでになった。

 「Twitter上でスシについて言及している人達は、皮肉混じりの表現でスシをゴミだと言っているけれど、よく分かっていない人は、有名な人が言及しているから良い銘柄なんだと思って買ってしまった」と橋本氏は当時の状況を説明した。

 ところが9月5日、設立者のシェフ・ノミは自身のスシトークンを売却したことが分かった。約14億円に相当する額だ。ここまでわずか1週間しか経っていない。

 もっとも、利用者からの多くの批判を浴び、その後シェフ・ノミは謝罪し、トークン売却益のすべてをスシプロジェクトの基金に返還したことを発表した。しかしながら、自身の発言で相場をいかようにでも動かせる立場であるのも事実で、必ずしも誠意を示したとは限らない。

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