鉄道業界で大流行の「SDGs」 背景に見える、エコテロリズムへの危機感杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2020年10月02日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

なぜ今ごろ? 誰も言わないその背景に「環境テロへの危機感」

 全て挙げるとキリがない。「鉄道会社名」とSDGsでネット検索してみれば、鉄道業界ではSDGsが大流行だ。しかし、ここで1つの疑問が生まれる。冒頭で記したように、SDGsは2015年に策定され、16年から発効している。しかし、鉄道各社、いや、日本企業の取り組みのほとんどが19年以降、20年になって目立ち始めた。

 この数年の沈黙はなぜか。急に取り組みが始まったように見える。そのきっかけを探してみると、首相官邸に設置された「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」にたどりついた。これが16年。SDGs発効に素早く対応している。17年に推進策として「SDGsアクションプラン2018」が制定され、以降、毎年のように改訂される。合わせて「ジャパンSDGsアワード」の表彰が行われている。

 そして19年12月、政府の「SDGs 実施指針」が改訂された。そこにはこうある。

2015年のSDGs採択から4年、2016年の実施指針決定から3年が経過し、SDGsを巡る状況が大きく変化し、国際社会が新たな課題や一段と深刻化した課題に直面する中、気候変動や貧困・格差の拡大による社会の分断・不安定化などの地球規模課題に対して、システムレベルのアプローチやインパクトの大きい取組を通じて、経済や社会の変革(トランスフォーメーション)を加速し、解決に向けて成果を出していくことがより一層必要となっている。

 文が長すぎてつかみ所がないけれど、重要な部分は「国際社会が新たな課題や一段と深刻化した課題に直面する中」だ。これはなにか。私の見立ては「エコテロリズム」の台頭だ。

 特に海洋環境保護団体を自称する「シー・シェパード」と日本の関係がある。11年12月に日本鯨類研究所が米国ワシントン州連邦地方裁判所に対して、調査捕鯨に対する危険行為を差し止めるよう訴えた。この訴訟は法廷侮辱罪に転じて米国最高裁まで争われ、15年にシー・シェパードの罪が確定。その後示談金が日本鯨類研究所に支払われ、16年に「永久に妨害行為を行わない」として両者の和解が成立した。

 もう一つは、環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの19年の国連演説(参考:NHK)だ。過激な口調で「もしあなた方が私たちを裏切ることを選ぶなら、あなたたちを絶対に許さない」と語った。正論を真っすぐに主張する姿は多くの人々に強い印象を残した。肯定的に捉えた人もいれば、否定的、反発する人もいる。当時16歳。「世の中を知らなすぎる」という声もあれば「だからこそ実直に捉えられた」という声もある。

 鉄道分野でも少なからず影響があり、特に彼女が実践した取り組み「フライトシェイム(飛び恥)」は、二酸化炭素排出量を減らして気候変動を阻止するため、飛行機より鉄道を利用しようという運動だ。これは鉄道ファンの私としては複雑な心境で、環境問題をきっかけに鉄道利用が促進されることは良いけれども、「鉄道の楽しさ」ではなく「飛行機よりマシ」という選択は少し残念でもあった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.