ローカル鉄道40社を訪ねる「鉄印帳」が大ヒット 「集めたい」心を捉える仕掛け杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2020年08月21日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 「鉄印帳」が好調だ。第三セクター鉄道等協議会加盟会社の取り組みで、名前の語感からも分かるように、寺社を巡る「御朱印帳」の鉄道版だ。第三セクター鉄道40社が「鉄印」を用意しており、まずは各社の窓口で専用の「鉄印帳」を2200円で購入する。その鉄印帳を参加会社の窓口に持参すると、記帳してもらえる。

第三セクター鉄道40社が実施する「鉄印帳」が好調(写真は鹿島臨海鉄道)

 記帳料は300円からで、当日有効の乗車券の提示が記帳の条件だ。全40社の鉄印を集めると、シリアルナンバー入りの「鉄印帳マイスターカード」の購入権と、読売旅行の旅メディアサイト「たびよみ」に名前を掲載する名誉が与えられる。

 なお「鉄印帳」は読売旅行の登録商標となっており、鉄印の提供は鉄印帳のみ。「御朱印帳」のように市販品を購入して使えるという仕組みではない。第三セクター鉄道の誘客と経営支援の意味があるため、きっちりと囲い込みが行われている。読売旅行と日本旅行が企画参加し、両社から「鉄印帳あつめツアー」も販売されている。

 「御朱印あつめ」の旅行者は多く、旅の動機として定着している。私も旅先でお参りすると、授与所で御朱印をいただく人を見かける。鉄印帳は御朱印帳になぞらえているから趣旨が分かりやすい。鉄道ファンだけではなく、ローカル線を旅したいという旅行ファンに支持されるだろう。

「鉄印帳」と鉄印の例。社長や職員の直筆、近隣神社の宮司の書、地元出身の書家、梵字やイラスト入り、伝統工芸を採用するなどさまざま

 7月10日に発売した「鉄印帳」の初版5000部は、各社とも初日〜1週間ほどで完売した。5000部を40社に割り当てたから、1社あたり平均125部。実際には数十部の会社も200部の会社もあった。第三セクターに限らず地方鉄道は赤字だ。売れ残れば仕入れ値を損する。弱気になる気持ちも分かる。早期完売の売れ行きはうれしい誤算だ。

 参加各社の公式サイトに「完売御礼」「すぐに増刷するので転売品の購入はお控えください」のメッセージが並んだ。その後も20部、30部と追加販売されて即日完売。ようやく増産体制が整い、8月18日から追加販売が始まった。また、9月からは初版の紺色だけではなく、黒、青、桃色、緑色も選べる。

9月から4色を追加する(出典:読売旅行 たびよみ

 伊勢鉄道はFacebookで追加販売分の即日完売を通知。8月26日に70冊、9月1日に50冊を入荷予定とのこと。他の会社も同様で勢いが止まらない。鉄印帳も鉄印も窓口での購入が原則だから、大都市圏からは現地に行かないと買えない。あるいは沿線の人々が最寄りの鉄道窓口に買いに行くことになる。いずれにしても、鉄印帳を手にした瞬間から、全国40カ所、残り39カ所を目指す旅が始まる。「Go To トラベルキャンペーン」よりも旅人の背中を押す仕掛けだ。

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