ローカル鉄道40社を訪ねる「鉄印帳」が大ヒット 「集めたい」心を捉える仕掛け杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2020年08月21日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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 スタンプラリーや鉄印帳も複合要素がある。「採集」に加えて、獲りに行く「狩猟」要素があるから魅力度が上がる。撮り鉄も「ある鉄道会社の車両全形式を撮りたい」となれば「採集」要素が加わる。模型鉄は車両を「採集」し、ジオラマを「栽培」する。これらは人間の本能の代償行為だ。

 趣味分野で新しい商品やサービスを考えるとき「採集」「狩猟」「栽培」の要素は重要だ。3要素のどれもない、あっても希薄だと人は本能を刺激されない。つまり売れない。

 しかし、鉄印帳のように、どれか1つを追求し、2つ以上の要素を組み合わせれば楽しさは増す。これが趣味ビジネスのアイデアの基本だ。ここに実行力のあるヒト・モノ・カネがそろって事業が成立する。

 「Go To トラベルキャンペーン」は派手に展開しているけれど、値引きしか訴求していない。これだけではヒトは動かない。一方、鉄印帳は値引き策がなくても人を旅に向かわせる。いまのところ、Go To トラベルキャンペーンを活用して鉄印帳を集めに行く旅が正解といえそうだ。しかし、キャンペーンが終わっても、鉄印帳の旅は人々をひきつけるだろう。値引きに頼らず、趣味の本質を見据えたサービスが成功の鍵といえそうだ。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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